■桜蘭高校ホスト部■

□よみきりSS集
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ある日、2人はちいさなキスひとつで互いの気持ちを確かめ合った。
だがそれは誰も知らない、2人だけの契約。

しかし互いの淡泊な性格が災いして、2人の関係はこれまでとなんら変わりがなかった。

いや、むしろ部員の目が気になって以前より会話が減った気すらする。


胸の内ではこんなに欲しているのに。ひねくれた接し方しかできない自分に、いつかハルヒが愛想を尽かすのではと不安になる。

自分もあの双子のように感情のままに行動できたらどんなに楽だろう……。



「先輩、顔色悪いですよ。心配ごとでもあるんですか?」

ふいに声をかけられて顔を上げると、傍らにハルヒがトレイを胸に抱くようにして立っていた。

「…い、いや、別に」

思考を読まれたかのような言葉に慌てる鏡夜の前に、コトン、とミルクたっぷりのコーヒーカップが置かれた。

「ありがとうハルヒ…だが俺はコーヒーはいつもブラックなんだが」

「たまにはいいじゃないですか。ブラックばかりじゃ胃を壊しますよ」

「確かにそうだな…」


珍しく素直な反応に、ハルヒは心配そうに鏡夜の顔を覗き込む。


…ほらね、おまえはその無防備な顔を、他の男にも見せているんだろ。
胃に穴があくほど心配ごとが絶えないのは誰のせいだ。

だが鈍感なハルヒはそんな鏡夜の気持ちに気付くわけもない。


「ストレスを感じてる時はブラックなんて絶対ダメですよ?先輩は図太く見えて、わりとストレスを溜め込むタイプですからね」

「『図太い』は余計だ…まぁいいか。いただくよ」

そう言うと鏡夜はコーヒーに口をつけた。



甘い。



いつもの庶民コーヒーとは違っていた。ほろ苦さにまろやかな甘さが加わる。

「ん?この味は…」

ふと思い当たって、鏡夜は言いかけた言葉を飲み込んだ。
疲れた時には甘いものがいいんですよ、と言うハルヒの頬は桜色に染まっていた。

これは、コーヒーにホワイトチョコシロップを入れた『ホワイトチョコレート・ラテ』。

鏡夜は自然と顔がにやけてしまうのを必死で抑える。

「先輩だけ、ですからね」

ハルヒは鏡夜にだけ聞こえる声でつぶやく。その顔はみるみる真っ赤になっていく。
鏡夜はたまらず笑い出す。

「おまえのこんな顔を見られるのは、俺だけだな」

「もうっ!笑わないでください…。今朝からすごく緊張してたんですから」

「そうなのか?」

「だって…バレンタインなんてぜんぜん興味なさそうにしてるし、こんなのうっとうしいって思われそうで…。それに先輩はいつもクールだから…キ…キスの事ももう忘れちゃったのかなぁって」

――ドクン!

鏡夜はその言葉に動揺する。
ハルヒの方こそなにかにつけて淡泊で、ベタベタするのは嫌いなのだろうと思っていたから。
だから俺はてっきり…。

「そうか、おまえは甘え下手なんだったよな、ハルヒ」

身勝手な嫉妬に身を焦がしていた自分が情けない。
鏡夜はチョコレートラテをもう一口飲むと、おもむろにハルヒの手を掴み、ガタンと席を立った。
部員たちの視線が鏡夜に集まる。

「みんな聞いてくれ!話したい事があるんだ……」




コーヒーに溶けた魔法の薬が、勇気をくれました。




…fin…
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