■桜蘭高校ホスト部■

□よみきりSS集
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■魔法使いの処方箋■


鏡夜はむっつりと黙って、眼鏡を外すと目頭をほぐすように指を宛てた。


部活を終えた第三音楽室では、ハルヒが部員たちに庶民コーヒーを入れている。
売上管理をしていたはずの鏡夜の視線はいつしかパソコン画面を通り越し、ハルヒと彼女にじゃれつく双子たちへと向けられていた。


「ねぇハルヒ!なんか忘れてない?」
「今日は2/14だよ?さて、なんの日でしょーか?」

ハルヒは人数分のコーヒーを運びながら、めんどくさそうに答える。

「バレンタインデーでしょ。あんまり興味ないけど」

「ピンポーン!大当り〜!」
「僕ら、ハルヒからのチョコまだもらってないんだけど」

「うん、だって用意してないもん」

あっさりと答えるハルヒに双子は食い下がる。

「え〜!女の子だろ?バレンタインっていったらさぁ」
「乙女にとっては一年に一度の大イベントじゃんか!」

「そんなの人それぞれでしょ?それに2人とも、お客様からいっぱいもらってたじゃん。まだ足りないの?」


「「…わかってないなぁ、僕らはハルヒからもらいたいんだよ!」」


否応なく耳に届くその声に、鏡夜はますます不機嫌になる。

いつもの調子でじゃれつく双子たち。
だが、その言葉に含まれた隠しきれない本心。

無頓着なハルヒは到底気付かない。
当の双子たちですら無自覚かもしれない。

だが、その危ういやりとりを見せられるこっちは、仕事が手につかないほど気が気じゃないというのに。


…ほら、また笑った。
そんなに近づくな。
俺の前ではそんな笑顔を見せないくせに。
他の男といるほうが楽しいのか、アイツは…。


ふと気付けばハルヒを目で追い、そんな事ばかりを考えている自分に愕然とする。
自分がこんなに子供じみた独占欲の持ち主だとは。

自己嫌悪に陥り、鏡夜はため息をつく。

俺をこんなに情けない男にしてしまったおまえは、どんな魔法を使ったんだ?


彼を悩ますのは、鈍感な恋人。


「…危なっかしくて目が離せないんだよ」


……あの日のキスが、俺を変えてしまったのだ。



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