■桜蘭高校ホスト部■
□よみきりSS集
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■Birthday■
赤く色づいた校庭の木々を見下ろしながら、第三音楽室では今日も華やかなティータイムが繰り広げられていた。
「ハルヒくん、今月の鏡夜様のお誕生日にはバースデーイベントはあるのかしら」
「あれ?そういえばまだ何も…」
「環さまのお誕生日には賑やかに仮装パーティーをしましたわよね!鏡夜様はどんな趣向を凝らしたパーティーになさるんでしょうね」
「どうしましょう、プレゼントは何がいいかしら!ハルヒくんは何をお贈りになるの?」
「はぁ…すみません、自分は行事に疎いので、考えてませんでした…」
きゃあきゃあと盛り上がる女生徒たちを横目で見なながら、ハルヒは物思いに耽っていた。
「そっか、誕生日か…」
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「というわけで、先輩のバースデーイベントを自分が企画することになりまして」
帰りぎわの鏡夜を引き止めて音楽室に居残ったハルヒは、机いっぱいに資料を広げはじめた。
「事前にいろいろ相談したいんですけど、いいですか?」
「…お前が?」
鏡夜はいぶかしげにハルヒを見る。
誕生日なんてものは、人間の年齢データを管理するためのアイテムでしかないと思っている。
部員の誕生日ごとにおこなうパーティも鏡夜にとっては人を集めて利益を生み出すための手段だ。
そのイベントプロデュースをハルヒがやるという。
「ハルヒ…お前、イベントの仕切りなんかできるのか?」
「うーん、昔からクラスの「お楽しみ会」では買い出し係ぐらいしかしたことないんですけど…頑張ってみます」
ハルヒは広げた本をパラパラとめくり始めた。
「参考になればと図書室から借りてきました。ええと、『心に残るおもてなし』と『失敗しないパーティ余興』、こっちは『彼をその気にさせるバースデープラン』…」
「…おい、その最後の雑誌はどこから持ってきたんだ」
「え?あ、これは商店街の美容院で古いのを処分してたんで、もらってきました」
「お前ねぇ…」
普段、無気力なハルヒにしては珍しく意気込んでいるようだ。
その努力は評価しないでもないが、上流階級の子女たちを集める大パーティーを社交界に縁がないハルヒが仕切るのにはさすがに無理がある。
「俺が思うに、やはりお前はこういった企画には…」
「へぇ〜、11月22日って“いい夫婦の日"なんですね」
ハルヒは興味津々で『月刊シニアライフ』の特集記事、『ノーモア熟年離婚・記念日に絆を深めよう』を熟読していた。
鏡夜の声などまったく聞こえていないようだ。
その雑誌も参考にするのか…?
ハルヒの中ではいったいどんなパーティーを思い描いているのだ、と頭を抱えたい気分で鏡夜は答える。
「よく言われるが…俺には関係ない事だ。俺の誕生日にくだらん駄洒落をつけられてこっちは迷惑している」
「ほかにも色々載ってますよ。11月22日の誕生花はコリウス、花言葉は“絶望的な愛”。誕生石はガーネット、石言葉は“真実の愛”だそうです。なんかロマンチックですね、似合わないけど」
そう言って今度は『週刊婦人』の占いページをめくる。
いつも行事や世俗的な事には無関心なハルヒが、まるで普通の女子高生のように雑誌の記事に興味を示している。…いや、雑誌のチョイスはハルヒらしいとも言えるのだが。
鏡夜は妙な違和感を感じずにはいられなかった。
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