■桜蘭高校ホスト部■

□夢一夜
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「ったくあのバカは。どこに紛れ込んだんだ」

沿道に屋台をみつけては子犬が尻尾を振るようにはしゃいでいたのだが、鏡夜がちょっと目を離した隙にフラフラと列を抜けてしまったのだろう。

自分から初詣を企画しておいて、勝手なやつだ。

間もなく日付が変わる頃だ。回線が混雑しているのか携帯も通じない。

「さて、どうするかな…」

深夜になり冷え込みも一層厳しくなってきた。鏡夜は小さなクシャミをして、腕を組み身震いをする。

探しに行くか?しかしこの人込みでは見つけるのは難しい。
下手に動けばますますすれ違うだろう。このままここで待とうか。

それに、今は歩きまわりたくない。何故か足が動かないのだ。
身体は冷えきっているのにやけに頬がほてる。腕や肩が心なしか痛い。頭痛もしてきた…。

「おかしいな、身体が重い…」


くらり、と鏡夜はよろめいてその場に膝をついた。

「先輩!どうしたんですか!」

ざわめく人々の中から、聞き慣れた声が聞こえた。

この声は。


「…ハルヒ?」

まさか。この人込みの中で偶然出会う確率なんて僅かな数字だ。
それにハルヒは今が稼ぎ時だからと、正月返上でバイトをしているはずだ。

幻聴か…?


鏡夜は深呼吸して頭を振った。余計な事を考えている場合じゃない。自分は今、人込みの中で不様に座り込んでいるのだ。
顔を上げて辺りを見るが、目の前がぐるぐる回ってよく見えない。ぼんやりと人々の顔が鏡夜を見下ろしているのがわかる。たくさんの声が頭上から降り注ぐ。

急いで身体を起こそうとするが力がはいらない。


その時、暖かい手が鏡夜の頬に触れた。

「すごい熱じゃないですか。こんなに汗かいて…わっ!」

「立てないんだ…力を貸してくれ」

鏡夜はその声の主に両腕をからめ、抱きしめるような体勢で身体を預けた。

鏡夜の頬にさらりと髪が触れる。シャンプーの香だろうか。ほのかな甘い香にホッと息をつく。

「………ありがとう」


それだけつぶやくと、鏡夜は意識を失った。



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