■桜蘭高校ホスト部■

□ヒミツのカタチ
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■ヒミツのカタチ■



揉み合う人だかりから少し離れて、ハルヒはその渦の中心に見え隠れする長身の彼を目で追っていた。

これが誕生日の朝の恒例行事らしい。5、60人の女子が芸能人の入り待ちさながら、登校する鏡夜を校門で待ち構えていたのだった。


鏡夜は群がる女の子たちにプレゼントを差し出されると、その対価として営業用の笑顔を見せて短く言葉をかける。
その横に控えた黒服の側近がせっせとプレゼントを回収していく。

端から見れば事務的な作業だが、鏡夜に言葉をかけられた彼女たちは感激して涙ぐんだり、友人と手を取り合ってはしゃいだりと、その一帯は異様な昂揚感に包まれていた。


「すごいな…」

改めて桜蘭での彼の人気を思い知らされる。
あの中に割って入っても、彼の元にたどり着けるかどうか自信がない。


――誰よりも先に先輩に会っておめでとうを言うはずだったのに…。


自分は鏡夜先輩の“カノジョ”なのだから、そのくらいの特権はあると思っていた。
なのに声もかけられず、遠巻きに見ているしかできないなんて。

高名な恋人は、自分なんかが独占できる存在ではないのだ…。

ハルヒはもやもやする気持ちを押さえ付けた。



この1ヶ月、ハルヒはずっと今日のことを考えていたのだ。何をプレゼントしようか、どんな言葉をかけようか、この大切な日を二人でどう過ごそうか…と。

今までこういった事に無関心だったので、どうしたら喜んでくれるかなんていくら考えてもわからない。
結局、何も用意できないうちに当日を迎えてしまった。


――こんなんで自分たちは本当に付き合ってるって言えるのかな。


そんな事を考えてしまう自分に気付き、ハルヒは落ち込む。

恋人同士になったとはいえ、ハルヒは男としてホスト部にいる。校内では人の目を気にしなくてはならず、鏡夜のハルヒに対する態度は付き合う前とまったく変わらなかった。



――大丈夫、わかってる。
恋人らしい雰囲気にはなれなくても、鏡夜先輩は自分の事をいつも気遣ってくれている。



そうは思っても、自分の手の届かないところで、女の子に囲まれて笑っている鏡夜を見ているのはつらかった。

ここにいても仕方ない。

放課後にも部室で会えるのだから…と諦めて立ち去ろうとした、その時だった。



「おい、どこへ行くんだ?」




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