■桜蘭高校ホスト部■
□パンドラ
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彼は隣にある横顔をただ見つめていた。
音楽室の大きな窓から差し込む光に彼女の輪郭がくっきりと浮かび上がる。
昼下がりの校舎には人影はまばらだった。
今日は授業はない。
式典は午前中で終わり、生徒たちはみな中庭に集まって、いくつものグループに固まってはガヤガヤと賑やかさを見せている。
3月。桜の花は固いつぼみをつけ始めていた。
それを窓際からぼんやりと見下ろしていると、吹き込む春風がやわらかい髪をゆらした。
鏡夜はそっと手をのばし、彼女の頬にかかる髪をはらう。
ハルヒは鏡夜を見上げる。
「先輩…?」
鏡夜はハルヒの頬に軽く触れながら、指先にその温もりを感じていた。
手の甲で桃色の頬を撫でるように滑らせた。
それはとても愛しげに。
ハルヒは不思議そうな顔で鏡夜を見つめ返す。
窓の光がレンズに反射し、ハルヒにはその奥の表情はわからない。
「俺は…昔から自分は他の奴らよりも大人だと思っていた」
ぽつり、と静かに話し始める。
幼い頃から2人の兄と比べられ、いつも期待に応えようと努力していた。
しかし努力をすればする程、相手は大きな期待をかけてくる。
そのくせ、彼らの思惑を越えた結果を残せば、褒められるどころか煙たがられるのだった。
繊細な少年はそれを敏感に感じとる。
いつしか人の顔色をうかがう癖がついていた。
自分自身を押さえ込み、人の思考を察して相手の望む行動を計算する。
そしてそれが結果的には自分に大きな利益をもたらすことに気付いた。
そんな自分に簡単に操られる周りの人間が愚かに見えた。
兄達や父でさえも。
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