■桜蘭高校ホスト部■

□夢一夜
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鏡夜はマフラーを口元まで引き上げ、コートの襟を掻き合わせた。
吐いた息が視界を曇らせるほどに白く立ちのぼる。

境内の行列はのろのろと移動しつつも、果てしなく続いている。

「先はまだまだ長いな…」

鏡夜はうんざりとつぶやく。

今年は環の発案で、大晦日の夜に庶民の初詣に行くことになったのだ。

環はハルヒの案内を期待していたのだろうが、当のハルヒはアルバイトに精を出しており、あっさり断られたようだ。
ハルヒが行かないならつまらない、と双子達も辞退。
ハニー先輩とモリ先輩は修業も兼ねて山に登り、頂上でご来光を拝むのだそうだ。

結局、参加者は鏡夜と環の2人だけとなった。
別に庶民の初詣に興味はないが、とにかく今夜は自宅から離れたかったのだ。
父親のお供で仕事関係のニューイヤーパーティーに出席させられて、どこぞの令嬢のご機嫌取りをするよりは、この人込みに紛れていたほうがマシだと思ったのだが。

しかし1時間もすし詰め状態で立たされていると、グチのひとつも言いたくなるではないか。

霊験あらたかな神社だかなんだか知らないが、よくもまぁ、この寒い夜にこれだけの人々が集まるものだ。

鳳の本家である鏡夜の周囲は、有力な人脈を繋ぎ止めるための挨拶まわりだけで年末年始は大忙しだというのに。
まったく庶民というのは金はないが時間と体力は有り余っているらしい。

辺りを見渡せばカップルや家族連れの集団が、口々に寒い寒いと言いながらも、なぜか満足げに微笑みあっている。なにが楽しくて笑っているのやら。

御利益?悪いがオレは神頼みなんてものに価値は感じられない。
新年を厳かに祝う気なんてさらさらない。ただ昨日と同じ太陽が昇り、いつもと同じ1日が始まるだけじゃないか。

なにをそんなに有り難がる必要がある?

そんな事を考えているとだんだん不愉快になってきた。


それもそのはず。先程から隣にいたはずの環がいないのだ。




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