■桜色・番外編■
□白昼夢
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白昼夢
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「いけない、眠ってしまったか」
昼下がり、静かに降り続く雨音が心地良くて、ソファーに腰掛けたままいつのまにかうたた寝してしまったようだ。
こんなところを主に見られたら。
あわてて立ち上がり、窓辺へと歩く。
雨はまだ止まない。
「夢を…見た」
まだまどろみの中にいるような倦怠感を感じながらつぶやく。
…夢の中の私は、執事ではなかった。
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私は貴女を探していた。
執事としてではなく、一人の男として貴女と出会うために…。
暗闇の中でもがきながら、私は貴女の姿を必死で探す。
遠くにぼんやりと浮かび上がるのは、微笑む貴女の幻影。
…やっと出会えた!
逸る心を押さえて私は貴女に駆け寄った。
さあ、出会いからやりなおそう。主でも従者でもない、ただの2人になって。
今の私なら、貴女と並んで歩いてゆける。貴女に触れることもできる。
ありのままの私をあなたにさらけ出したい…。
貴女の肩を抱き寄せたくて手を伸ばすと、その微笑みは雨に流されるように消えてゆく。
どうしても近づけない、あなたとの距離。
「行かないで。私のそばにいて…!」
そう叫ぼうとして、目が覚めた。
まるでしゃぼんが弾けるように、一瞬で消えた貴女の幻……。
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桐谷は窓の外に目をやる。
濡れたガラス越しの風景が先程の夢を思い出させる。
いつか貴女を見失うぐらいなら…。
たとえ永遠に触れられなくてもこのまま貴女のそばにいたい。
一生、貴女に仕える執事でありたい…。
桐谷は白昼夢を振り払うかのように、拳を強く握りしめた。
もう、夢は見ない。
私は「執事」なのだから。