□よみきり短編□
□睡蓮〜望むこと
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望むこと
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先程からレオ様がこちらをじっと見つめている。
「なにかご用ですか」
と声をかければ、
「なんでもない」
と答えるだけ。
しかしその視線はずっと私のことを追いかけてくる。
気付かぬふりをしてしばらく待ってみたが、まだレオ様の興味は私にあるようだ。
じっと視線を浴び続け、気のせいか頬のあたりがくすぐったい。
「レオ様、いい加減に…」
たまらずに振り向くと、いつのまにかレオ様は私のすぐ隣で爪先立ちになり、私の顔を見上げていた。
「ねぇ、眼鏡はずして」
ドキッ
思わず息をのむ。
「ねぇ」
催促しながら、手はすでに私の眼鏡に伸びている。
あわててその手を掴んだが、一瞬の隙をついて眼鏡を奪われる。
急に視界が歪んで動けなくなる。
レオ様は手を軽く振りほどくと私の肩に寄り掛かり、ますます背伸びをして顔を近づけてくる。
ぼんやりと滲んだ世界の中で、レオ様の澄んだ瞳と紅い唇だけがクッキリと浮かんで見えた。
こんな近くで主の顔を見たのは何年ぶりだろうか…。
「な、なにを…」
「エドガー、私の考えてること、わかる…?」
ドキン!
胸が大きく波打つ。
何かを伝えようと必死で私を見つめる瞳。
目がそらせない。もはや平常心ではいられなかった。
レオ様、私に何をお望みなのですか。
私は…私には…。
「…やっぱり目と目で会話をするのは無理のようだな」
レオ様はそう言うと気がすんだのか、「もういいや」と残念そうにつぶやいて私に眼鏡を返してくる。
「…あの、今のは…?」
「昨日、バーンズ家のサロンで、目を見ただけで人の心を読むという超能力の話を聞いたんだ。テレパシーというらしい」
レオ様はいたって真面目な顔で語り出す。
「いつもおまえは、私が望むものを言葉にする前に用意するだろう?もしかしたらと思ったんだが…残念だな」
「なるほど…これは実験だったわけですね」
ならば最初から言ってくださればよいのに、まったくレオ様ときたら。
私はため息をついて眼鏡をかけ直した。この人やる事はいつも私を惑わせる。
「それで、この実験では何を伝えようとしていたのですか?」
「…それは内緒だっ!」
聞いてはいけない質問だったのか、レオ様は急にぷいっとそっぽを向いてズカズカと歩いていってしまった。
「気まぐれなお方だ…」
私は呆然としてレオ様の後ろ姿を見つめた。
…心なしか頬が赤らんでいるように見えたのは、私の気のせいだろうか。