■万歳!お嬢さま■
□2話(後編)
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桐子お嬢さまが私に隠れて、毎晩他の男とドライブに…。
なんということだ。
私は12年間の長きにわたり、お嬢さまのためだけにハンドルを握ってきた専属運転手だというのに。
お嬢さまが移動中も快適に過ごせるようにと、それだけを考えてきたのだ。
私は稲葉家に数ある高級外車をあえて使わずに、国産車をお嬢さま好みにカスタムしている。
お嬢さまをお乗せするのはいつも後部座席だ。
窓枠に左腕を当てて、寄りかかって外を見るのがあの方のクセなので、外車では運転席の後ろにお嬢さまが座ることになってしまう。
ミラー越しのお嬢さまのささいな視線の動きに注意を払い、瞬時にご希望を汲み取る。
そして必要なときにすぐお飲み物を差し出したり、読みかけの漫画をお渡しする。
そのためには右ハンドルでなくてはならない。
私は運転をしながら、同時にお嬢さまの姿を常に視野に入れるようにしているのだ。
すべてはお嬢さまのため。
なのに…。
こうもあっさりと他の男の車に乗るとは。私の存在価値を否定されたかのようなショックだ。
「ああ、お嬢さま…。私はもう必要ないのですか」
目尻に涙が浮かぶ。
……どれだけの時間がたっただろう。時計を見るとすでに午後8時を回っていた。
こうしてはいられない。お嬢さまのバイト先にお迎えにあがるまで、あと2時間。
ぐっとこらえ、こぶしで涙を拭う。
33歳にもなった男がこんな乙女のような感傷に浸っている場合ではないのだ。
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