■万歳!お嬢さま■
□1話(前編)
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「ちょーっと!幸崎っ!」
月曜日の朝。
今日もお嬢さまの声が響き渡る。
この4LDKマンションの1室には、お嬢さまと私、2人きり。
桐子お嬢さまは因幡家の末娘で、今年19歳の大学生。
私は20歳で因幡家へ勤めてから12年間、お嬢様が小学生の頃からずっと、毎日送り迎えをしている専属運転手なのだ。
車の中というのは、いわば小さな密室で、世の喧騒からわずかに隔離された空間だ。
幼い頃は私の車に乗った瞬間に、待ちきれないとばかりに今日は学校で何をしたとか、だれと遊んだだとか、そういった報告を私に真っ先にしてくださった。
思春期になれば、進路の悩みから、淡い恋の相談まで・・・。
嬉しい報告を聞いては一緒に喜び、落ち込んだときには励まし、時には一緒に悩んだりもした。
世間知らずでワガママな人ではあるが、私にとっては何物にも変えられない、大切な人だ。
先月、お嬢さまが家を出て自分の力で生活したいと言い出したときには、お力になれるように最大限の協力をしようと誓ったが…。
まさか私のマンションに居候することになるとは。
「だって、バイトしたって家賃までは払えないもん!」
と言って、私の部屋に住み着いてしまったのだ。
しかし、お嬢さまがこの独立(?)計画を打ち明けてくれたのは私だけ。
本家の旦那様も、学校の寮に入っていると信じておられるのだ。
それだけ私はお嬢さまの信頼を得ているということだ。
「こーうーざーきー!」
「お嬢さま!大きな声出さないでくださいっ!ご近所に聞こえますから」
お嬢さまが来てからというもの、私は近所から好奇の目で見られているのだ。
以前、共同ごみ置き場で奥様連中が私のことを噂しているのを聞いてしまった。
「どう見ても10歳以上年下の女を連れ込んでるロリコン」だの、
「若い女にあごで使われて『女王様』と呼んでいた」だのと、勝手なことを言われているようだ。
あくまで「おじょうさま」であって「じょおうさま」とは一度も呼んだことなどないのだが、噂というものは尾ひれがついて回るものである。
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