■万歳!お嬢さま■

□Sparkling girl
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幸崎は夕食の買い物を終えて家路に着いた。桐子はバイト先の友達と約束があるとかで、今夜は遅くなると言っていた。


「今日は夕飯いらないから」

そう言われていても、つい桐子の好きなものを選んでしまう。
もしかしたら予定が変わって夕食を済ませずに戻るかもしれない、もしくは夜食に何かつまむかもしれない…と、結局桐子の分の食事も用意してしまうのだ。

大抵の場合、その期待は裏切られるのだが。


案の定、まだ桐子は帰っていないようだった。幸崎はいつものように居間のテーブルに荷物を置くと、留守電の再生スイッチを押した。
ピーという音に続いてメッセージが流れる。

「幸崎様、先日お送りした資料はご覧いただけましたでしょうか?」

マニュアルどおりの機械的な声が延々と流れる。最近の留守電は保険の勧誘がほとんどだ。適当に聞き流しながらキッチンに夕食の材料を並べていたが、メッセージに聞き覚えのある声を見つけ、ふと手を止めた。


「もしもし、僕、青木です」


それは桐子のバイト先の青年の声だった。

桐子が密かに憧れている、大学の先輩。幸崎も前に一度会ったことがある。
バイト先に偵察に行き、桐子と親しげなその青年を牽制してやったのだ。

「…あの青年、まだ桐子お嬢さまに馴れ馴れしくしているのか」

もしや今日会っている友人というのは彼のことだろうか、と幸崎は考えをめぐらせる。

彼は幸崎が桐子と同居していることを知っている。実際のところはただの「居候の主と使用人」という関係だが、桐子が稲葉家の令嬢であることを隠しているため、彼は幸崎と桐子のことを「浅からぬ関係」だと思っているはずだ。

もちろん、あえてそういう印象を与えてやったのだが。

しぶといオトコめ。今さらいったい何の用があるというのだ。そう思いながら留守電の声に耳を傾ける。




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