■桜蘭高校ホスト部■
□By My Side
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「おまえ、これが悪用される可能性を少しは考えなかったのか?」
「どういう意味ですか?」
「うちの常連の女性客だけなら身元は請け合うが、あの抽選会にはモリ先輩ファンの運動部のヤツらや常陸院のブランド目当てのチャラついた男も多かったんだぞ。
そいつらに当たったらどうするつもりだったんだ」
「どうって別に、依頼は受けますよ。仕事は1つだけっていう決まりですからせいぜい2、3時間ぐらいで済む事じゃないですか」
「…2、3時間あったら何されるかわからんだろうが」
鏡夜は小さくつぶやいた。
聞き取れなかったハルヒは、え?という風に鏡夜を見たが、鏡夜は答えずにすっと目を反らす。
その態度に、ハルヒは意地になって言い返す。
「また先輩は隙だらけだとか考えが甘いと言いたいんでしょう?」
「その通りだ。やっと自覚したか」
「お言葉ですが、自分だってちゃんと考えてますよ。使用回数は1枚1回と決めてるんですから、無理なことはないと思いますけど!」
「じゃあ、俺がこのカードを使わせてもらうが、いいか?」
「望むところです!」
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そして今日は大晦日である。
結局あれから7日間、ハルヒは冬休み返上で毎日鏡夜の家へ通っては、ひたすらゴシゴシと窓ガラスを磨いていたのだ。
「1枚につき1作業」というルールどおり、鏡夜に依頼されたのは『窓拭き』だけだ。
お安いご用とばかりに引き受けたものの、鏡夜がそんな簡単な依頼で済ませるわけがない。
膨大な部屋数に加え、一面ガラス張りの巨大なサンルームがあったのだ。
2、3時間どころか2、3日たっても終わらなかった。
「なんかうまく丸め込まれた気がする…」
腑に落ちない気もするが、自分で作ったルールだ。
頼まれた仕事は最後までやり通さなくては。
ハルヒは雑巾を握り締めると、よし!と気合いを入れ直す。
鏡夜はそんなハルヒの小さな背中を静かに見つめていた。
「自分の無防備さがどれだけ周囲の人間に影響を与えるかを…おまえはわかっていないんだ」
鏡夜はそうつぶやくと、カードを胸ポケットに納めた。
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