■桜蘭高校ホスト部■
□若葉デート
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「ちょっと!はぐれないでくださいって言ったじゃないですか!」
ジャケットの袖をグッと引っ張られて鏡夜は振り返った。
その手にはさっき買いあさったと本とCDの他に派手な手提げ袋が握られていた。
「あっ、いつの間に買い物済ませてるんですか!もう、一声かけてくださいよ…」
ハルヒは息を切らせて一気に言った。慣れないところに連れて来た責任があるし、心配したんですからね、と。
「はぐれたら携帯があるだろ。環じゃあるまいし、俺がそこまで心配される理由はないと思うが」
「あ、そうか。携帯持ってるんだっけ」
普段まったく持ち歩かないので、携帯のことは考えていなかった…。
ハルヒはどっと押し寄せた疲れにガクッと肩を落とす。
「まったくお前は文明に取り残されているな。そんなに探したのか」
「だってまさか、おもちゃ屋にいるなんて思わなかったから、紳士服とか家具売り場とか見てまわって…」
「お前ね、よく考えてみろ。俺がこんな安価な既製品の服や家具を買うと思うか?」
「そう言われれば…」
「もし買うことがあったとすれば、会社ごと買収する時ぐらいだな」
「…お見それしました」
ふてぶてしく眼鏡を上げる魔王に、ハルヒは降参するしかなかった。
「でもおもちゃ屋にいるのは意外でしたよ、こういうの好きなんですか?
先程の本屋で言われた言葉をそのまま鏡夜に返す。
「まあな。子供の頃、親からはあまり与えられなかったから。…三男なんてそんなもんだろ」
真剣な顔でラジコンカーのリモコンをいじりながら、気もなく答える。
「だけど、末っ子は甘やかされるとも聞きますよ?それにお金持ちの子は、おもちゃに囲まれて飽きたら使い捨てなんだと思ってました、イメージ的に」
「なんだそれは。庶民の金持ちに対する歪んだイメージだな」
鏡夜はあきれて笑う。
「残念ながらうちは違ったな。両親に買い与えられたものはなにもないね。兄達ほど期待されていない分、放任主義だった。だから俺は自分から申し出て、兄に追い付くための英才教育を受けていた。物心ついた頃からね」
「そうなんですか」
今までのホスト部の人たちとの付き合いの中で、みんなそれぞれの家の事情を抱えているということはなんとなく知っていたけれど。
そんな話の断片を聞くたびに、彼等の背負うものの大きさに驚かされる。
まだまだ知らないことばかりなのかもしれない…。
途方もない世界が垣間見えたような気がして、ハルヒははぁーと大きなため息をつく。
それに気付き、鏡夜も両手の荷物を持ち替えながら言った。
「俺もさすがに疲れたな。どこかで休むか」
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