■桜蘭高校ホスト部■

□若葉デート
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駅から程近いショッピングモールは衣食住のすべてが安価で揃っていた。店の名前を歌う安っぽいテーマソングが流れ、近隣庶民たちの群れが異様な活気を見せている。


二人は本屋に向かった。フロアの半分が書籍、もう半分がCDショップになっている大型店だ。


「こんな大きな店が地元にあったんだな。知らなかった」

鏡夜は珍しそうに辺りを見回す。

「先輩は買い物はどこに行くんですか?」

「人ごみは好きじゃないからな。服や靴を買うときは表参道の知り合いのデザイナーの店を貸し切っている。他の物は橘に揃えさせるか、ネットで取り寄せるかだ」

「うわぁ別世界の話だ…。いいですか、迷子になったらいつかの物産展の時みたいに迷子アナウンスかけますからね?」

はぐれないでくださいね、とハルヒは念を押すと、参考書、文芸書、雑誌…と先頭に立って各コーナーを効率よく回ってゆく。次々と手に取っては中身と値段をすばやく確認し、必要な何冊かを腕に抱える。

その手際のよさを興味深そうに眺めながらも、鏡夜もいくつかの小説とビジネス書を確保した。

ハルヒがピタリと写真集コーナーの前で立ち止まる。じっ、と見つめているのは夜空一面の星空を写した写真集。


「そういうの好きなのか?」

声をかけられると、ハルヒは照れたように表紙から視線をずらす。

「はい。子供の頃は夜になるとアパートの窓から空を見てました」

「ふうん、意外だな。お前はそういった事には無感動だと思っていた」

「父が夜の仕事に行くとずっと一人だったので、父が『お星様と2人で留守番しててね』って言うんです。自分も子供の頃は母が星になったって信じてましたから…」

鏡夜はハルヒの横顔を静かに見つめた。
きっと、母を亡くしたばかりの幼い少女には、一人ぼっちの夜は寂しすぎて。お母さんの星を一晩中眺めながら、父の帰りを待っていたのだろう。


「小学校の高学年になって宇宙の仕組みを習うまで、本気で信じていたんですよ。おかしいですよね。でも今でも星を見ると、なんとなく落ち着くんです」

「…そうか」

鏡夜はそう答えただけだった。
いつものホスト部での接客の時ように、ここで気の利いた事を言うこともできる。だが口先だけのそれは同情の言葉に聞こえてしまうだろうから。


「変な話してすみません。あ、今度はあっちでCD見ましょうか」

そう言うとハルヒはスタスタと本棚の間を歩き出す。
鏡夜はそっとその写真集を手に取ると、ハルヒの後を追った。





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