■桜蘭高校ホスト部■
□若葉デート
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報告を聞き終えた鏡夜は心底からあきれて言った。
「あのバカはどこまで自分中心なんだ…。お前も災難だったなハルヒ」
「いえ、もう慣れましたから。ところで、この環先輩からの遺言…あ、違った…伝言で後を託されちゃったんですが、どうしたらいいでしょうか」
「具体的になにを託されたんだ?」
鏡夜の問いに戸惑うような一瞬の沈黙の後、ハルヒはおずおずと言う。
「…鏡夜先輩が一人で寂しがってるだろうから、一緒にどこかへ遊びに行ってくるように、って」
「……!なんだそのバカげた指示は!」
鏡夜はしばし絶句した後、ハッと気を取り直して続けた。戸惑いのせいで思わず語気が荒くなってしまったのを気にしたのか、ハルヒが申し訳なさそうに言った。
「そうですよね、自分も余計なお節介だと思ったんですけど、でも環先輩は本気で心配しているみたいだったし、一応連絡したほうがいいかなと思って」
「いや、スマン。別にお前を責めたわけじゃないよ」
「はい…すみません」
「だから、お前が謝る必要はないだろう?」
「いえ…よく考えたら鏡夜先輩の事だから寂しいどころか、せいせいしたとばかりに一人の時間を満喫してるんだろーなーと今更ながら思い当たりまして…」
「…まぁ、ご想像にお任せするよ」
先程まで考えていた事を見透かされたようで、鏡夜は言葉を濁す。
「つい自分の水準で考えちゃうんですけど、よく考えたらみなさんお金持ちなんですよね。ゴールデンウイークには海外旅行とか行くんですよね、ふつう」
そう言うハルヒだが、その声には羨むような色はまったく感じられない。『よそはよそ、うちはうち』という意識なのだろう。その淡泊さが鏡夜は気に入っていた。
今まで付き合いのあった人間は、鳳家という名を聞くと態度を変えた。どこか名家に対する「やっかみ」や、あわよくば取り入ろうとする「やましさ」があったが、ハルヒはそういう連中とはまったく別だった。
いや、「鳳家」という恐ろしく大きな組織の事など、彼女は知らないのだ。ハルヒと話していると肩にのしかかる重い荷物をひとつ下ろしたような気持ちになる。
環以外の人間とこんな風に他愛もない長電話をすることなんて、今まであっただろうか。
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