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□隣の人は
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「アンちゃん今日も超かわいー!パンツ何色なの?」
「やだもう、からかわないで〜」
…これが高校生のノリなのか。鈴屋八生(すずや やよい)とクラスの皆、他クラスの生徒まで彼の周りに集まり、きゃっきゃと朝からテンションが高い。髪は黒髪ながら着崩した制服にキラリと光るアクセサリー。
そんな姿に目をくれる事もなく、自席に座れば小説を読む。
少しすれば、隣の席に座る気配がしたので、顔を上げて挨拶をした。しかし挨拶は返ってこず、絶望に満ちた表情でクラスの中心人物を眺めている。
…またリア充が憎いとか、告白して失敗したとか、その辺りだろう。一応友達ながら、彼は彼なりに恋多き若人だ。
「はぁ…殴りたい」
「話ぐらいなら聞くから、やめとけ」
「うるさい」
いつも以上に虫の居所が悪いらしい。あまり話しかけず、頭を抱える友人から目を離し、小説の続きを読み更けていた。
何となく、その隣席の友達。なおっちが話しかけ憎いオーラを身に纏っており、お昼休みも一人でどこかへ行ってしまった。
まー失恋の悲しみは俺には分からん。なおっちのマイペースな行動はいつもの事なので、そこまで気にも止めず、窓の外を眺めて一人で飯を食っていた。
いつもなら男子達がサッカーをしているのだが、何だかメンバーが少ない気もする。だけどそれを気にとめる事もなく、弁当を食べ終えれば机に突っ伏した。
そして午後の授業も終わり、帰り支度をしていれば、にこりと微笑む鈴屋が顔を覗いてきたのだ。
「昭正、今日一緒にカラオケ行かない?」
「えー、こいつ歌うの?」
「他の子誘おうよー」
余りにも自然に誘われたので、反応が遅れてしまった。ズレた眼鏡をかけ直しながら、首を横に振る。
「いいからいいから、な?」
ぐいぐいと腕を引かれ、断り続けるが離してくれない。それを見て冷やかす女の子達。困っていればガンッと鈍い音を立ててなおっちが机を蹴り飛ばした。
「いい加減にしろよ」
「なーにそんな怒ってんの。一緒に行きたかった?」
あーあ…どうしたものか。なおっちは常日頃からイケメンを嫌う代表みたいな奴だ。なおっちも多分格好良い部類…見た目の軽さで言えば上なくらいだ。髪は脱色してるし、彼ほどでは無いけど制服も着崩してる…けどその、あれだ、左手に包帯を巻いてる。
偶に同じ仲間…リア充を爆破したい奴らで集まり、意見交換したり、その…呪ったりしてるデリケートな種族なんだ。頼むからそっとしててあげてほしい。
いつもなら泣いて逃げ出すかと思って呑気に見ていれば、胸ぐらを掴む姿に流石に少し焦り、間に入った。
「ごめん、今日は二人で勉強する約束してるから。誘ってくれてありがとう」
「ふーん…まぁいいけど」
威嚇をやめないなおっちを抑え、先に帰ってもらえば彼を解放した。
「どうかしたのか?」
「…別に、つか可笑しいと思わねーの?」
…いや、あのだな。それを答えると多分なおっち拗ねるぞ…。いつも可笑しいだなんて、本人に言えない。
答えに困っていれば、鞄を持ち教室を出て行くので、一応後をついて行く。
いつもの帰り道と反対方向に行こうとするので、腕を掴み軽く引っ張る。
「何?」
「…一緒に勉強、するかなって」
テストが近いし、彼には直前になっていつも泣きつかれている。今日くらいから少し余裕を持ってやった方がいいと思う。
…それと、そっちの方向は鈴屋達が行ったから、このまま放っておくのも少し怖い。
黙って頷いたので手を離せば、自宅へと招いたのだった。