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□制服の悪魔
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「好き、愛してる」
「いや、あの…やめてくだサイ」


想い描いていた学園生活は…早々に崩れ始めていた。


ーーー


「おはよう、今日も可愛いね」


甘い笑顔に歯の浮く台詞、いったい誰に向けて発しているのだろうか。…背けられる事のない熱い視線を教科書でガードしながら、ふと思い返してみる。


実は俺は人間ではない。小悪魔から悪魔になるべく人間界に勉強しに来た異界人である。
そこは人間界にも通じる物があり、小悪魔も学校を卒業すれば晴れて悪魔に。行ける場所は広がり出来る事、やれる魔術が格段に増えるのだ。
まぁ、悪魔が人間界で何もせず理性的に過ごすのだから、これが卒業試験の様な物。これが済めば俺もやっと悪魔になれる。

今や悪魔も、絵本や物語の様な悪役ではない。そう言った種族も一部いるだけで、人間に角と尻尾、翼かな。後は服のセンスや食べ物が違うだけで同じような生活を送っている。

しかしやはり異界で人間の振りをしながら暮らすのは大変だ。普段は少ない魔力で引っ込めているが、極力は帽子を被ったり、人前ではあまり肌を出さない様に気をつけている。


「ねぇ、髪の毛触ってもいい?」
「触らないでくだサイ」


引っ込めているけど角の位置に触れそうな手を、持っていた薄い教科書でパタパタと払う。…頼むから考え事ぐらいさせてくれ。
何だが周りに華でも咲かせてそうな柔らかな笑顔を直視してしまえば…ぎゅるりとお腹が痛み始めた。
鳴り響くチャイムに毎回救われながら、彼の後ろ姿を眺める。

日本は食も豊かで何より平和!国民は慎ましくお淑やかだと習って第一希望にしたのだ。そしてとても楽しみに来たのに…何だこの状況は。
それに、彼は教科書に描かれていた日本人より随分と美形…まるでハーフの様だ。柔らかそうな髪は色が少し抜けているし、目鼻立ちも整っている。…少し垂れ目なくらい、だからか笑顔が凄く自然。
口元の横に黒子まであり、それが何ともセクシーだ。…と女の子が言っていた。

彼、天白(あましろ)には感謝はしている。転校して来てた日から、緊張して日本語すら危うかった俺の面倒を、嫌な顔をする事なく見てきてくれたんだ。お陰様で順調に過ごせている。

…しかしいつからだったか、…何だが距離が近い気がする。

鏡で何度も自分の姿を見たが…凄く日本人っぽい。それが日本に来た理由の一つでもある。馴染みやすいかなって。
こう、教科書に載ってるやつ。黒髪で年より少し若く見えるくらいの、中肉中背の男子。それが俺だ。

悪魔だって恋愛はするから、彼が可笑しな事を言ってるのくらいは理解している。

悪魔界も一応平和には暮らしたいので、”力有る物を尊敬し、力なき物は愛でよ”と言われており、前者は雄、後者は雌、子供も指している。
そう教え込まれるので、…美女と野獣カップルが悪魔界には多い。…最近では逆も増えてきたけどね。女性って強いなと、良くテレビを見ながら思っていた。

…そして俺が彼に声に出してでも言いたいのが、異性を愛し子孫を残せ、だ。彼程ならルックスだけでも有能な遺伝子だろう。オマケに勉強もスポーツも出来ると来た。そんなの何で俺に構ってるんだってレベルの話だ。

もう学園では上手くやっていけてる。時々言葉が固くなってしまうも、意思疎通には問題ない。
しかし何度もお礼を言ってるのに離してくれない。…これが人間界流友達らしい。何て言うか、出来た人間っていうのか。


「…ぇ、ねぇってば、返事くれないとキスしちゃうよ?」
「…勘弁してください」


顔の前に教科書を突き立て、教科書の使い道を間違えながら顔をガードする。

彼とあまり一緒に居たくない理由が、この好意もあるけど…何だが具合が悪くなってくるのだ。
この手の扱いに慣れてないからか…こう、小悪魔なりに彼を結果として束縛してる罪悪感でも湧いてきてるのだろうか。


ああ、今日もお腹が痛い。
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