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sideー田中太一


よし!もうこの際だから新があいべちゃんなのかどうかはっきりさせようっ。
と言っても、問い詰める訳じゃないよ。新の事は大好きだし、日々感謝はしてるんだから。それに、言わないのだって理由があるはず。

俺の自己満足、納得したいなーって。…そうすれば心ゆくまであいべちゃんの声で新と色んな妄想が…。


「あっ、んんっ、気持ちいいよぉ…もっと突いて…?」


思い浮かぶのは、るるんちゃんシリーズの声。
…っ、こ、これはこれで好きだけど、新だったらこんな風には、もっとこう…こんな風に…。


「ん…んんっ、も…太一…っ」


そうそう、シーツとか握ったり必死に声我慢して、でも真っ赤な顔で濡れた瞳で俺を見てきたり……。ぶふっ、あー…また鼻血が…先に免疫つけなきゃ駄目かも。


「ただいまー…ってまた鼻血…。あれ、お風呂まだ?」
「おかえりー、まだ早くない?」
「今日9時から断水だから、それまでにって言わなかったっけ…」
「…言われてたような気がする」
「とりあえずお湯張るけど間に合うかな…着替え準備してて」


浴槽は前日に洗っているからと、水で流してお湯を張り始める新。


「九時になる前に一声かけるから」
「え、でも新は?」
「俺はいいよ。俳優なんだから田中優先」
「駄目だよ、新が入って?」
「俺は何とか…って本当に時間ないから、…一緒ならいい?」
「ええっ、待って待って!」


元はと言えば俺が新の言い付け忘れてたのが原因なんだから、俺だけ入る訳にはいかないけど…そ、それにしたって一緒は不味いでありますっ。


「先に田中が洗うの済ませて湯船浸かってて。その後俺が洗うから」
「い、一日くらい入らなくても…」
「駄目、明日も早くからドラマ撮影だろ?」


自分も着替え取ってくるからと、俺を浴室に突っ込み駆けていってしまった。


ーーー


「あー…間に合って良かったぁ…」
「せ、狭いでしょ?俺もう上がるから…」
「これでも狭い?何か、偶にはこう言うのも楽しくない?」
「う…うん、楽しい」


…下心が勝っちゃって、結局一緒に入浴しちゃった。
でももう鼻血出そうだし、くらくらし過ぎて上がろうとしたのに、引き寄せられて新に背を向けて寄りかかる感じに。…逆やりたかった。でもタオルで隠れてる部分が新に当たってしまう。

二人で入ってるから、少ないお湯でも肩辺りまで浸かれてる。…確かに気持ちいいし、物凄く楽しい。ここは天国かと思うほど極楽。


「田中の体って凄いな…肩とか背中も綺麗」
「そんな事ないし擽ったいから…」
「ごめんごめん」


…でもこんな事生殺し以外の何物でもないっ!あー…せめて新があいべちゃんっぽかったら、照れたり恥じらったりで、俺の方からちょっとからかったり出来るのに。
良くも悪くも新は男だもんな。無防備だし平気で触ってくる…。…ここは地獄か。

そんな所も好きだけど、とお湯の中でぶくぶくと呟く。
「何遊んでるの」と優し気な声で笑われ、濡れた髪を撫でてくる。

何となくいい雰囲気、今なら聞けるかな?


「あー、そう言えばさー」
「どうかした?」
「新の劇団っていつ公演してるの?一回見てみたい」
「あぁ、でも俺殆ど出演してないから…」
「それでも見たい!もしかして女装もするの?」
「あ、あれは…女装はしないけど。とにかく、田中が来たらパニックになるからごめん」


…やっぱり、あれだけ仕事だって家を空けるのに、稽古ばかりって言うのも変だ。俺も一時期売れてなかったからよく分かる。
ちらりと振り返って顔を見てみれば、あの時の様に悪さした子供みたいな表情の新。


「じゃービデオでもいいから」
「録画禁止で…」
「…台本見せて?」
「外部に見せちゃ駄目で…」
「新の演技見たいし、相手役するよ?」
「今は大丈夫だから、ありがとう」


…怪しい、やっぱり変だ。
自分で言うのもあれだけど、俺が相手役するなら喜ぶはず。現に前だってセーラー服を簡単に着てしまうくらい頼んできたのに。…女装趣味とかじゃないと思うし。

…新って嘘つくの物凄く下手だな…俺でも見破れてしまう程、申し訳なさそうな顔してる。何だ唯の天使か。


「田中も、読み合わせくらいなら付き合うから言ってよ?俺じゃ力不足かもしれないけど」
「そんな事ないよ。じゃー近い内にお願いするね」


…よし、話は逸れたけどラブストーリー万歳!新に甘い台詞いっぱい読んでもらおっと。
新が相手役してくれたら、今のドラマ撮影も倍楽しくなりそう。…思い出して鼻血吹き出すとかはしないように、しっかり免疫つけないと。

…その為にも今この目に新の裸を焼き付けておこう!


「そろそろ上がる?」
「あ、うん。俺が先に上がるね」


くそう、ポジションが逆だったらお風呂上がる新とか、着替えもこっそり覗けたかもしれないのに。…着替えは後でも覗けるか。

刺激が強過ぎて身体洗ってる姿とか目を逸らしちゃったんだよなぁ…もったいない、今更後悔してる。
でも免疫つけるにも、段階踏んでいかないと…血の海になりそうだ。

今日は新とお風呂に入れただけで幸せだったって事にしよう、うん。


「あ、タオル取れかけて…、…っ」
「ん?」
「や…夜食うどんにしよっか。あ、でも田中明日早いもんな…おにぎり作っておくから、それを朝食べて行ってもらって、それから……うん、早く上がって」
「ご、こめんっ」


何か言いかけたから振り返ってみれば…新が目を丸くさせた。
それから膝を抱えて視線を逸らし、何だが何気ない普通の事をいっぱい喋ってたけど、気まずそうに俯く。

不思議に思うも、視界の端で湯船に沈んでいくのは白いタオル…。
状況を理解すれば一気に赤面し、慌てて浴室から退散したのだった。



sideー田中太一end
 

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