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sideー田中太一


「太一さん、体に気を付けてお仕事頑張ってね?ぼく、太一さんの好きな格好で、ご飯作って待ってるから!」


エプロンを身に付けた新に、照れ臭そうに見送られる。
そして仕事を済ませ、疲れ気味で帰宅すれば…。


「お帰りなさい。セーラー服着てみたんだけど、どうかな。まだ高校生に見える?…なんてね。ご飯にする?お風呂も沸いてるよ?…それとも……」


声は聞こえるのに、肝心の姿に影がかかりよく見えない!
目を擦ってみても全然見えず、聞こえてくるのはくすくすと笑う可愛らしい声だけ。

何が何でも見たくて堪らず、彼を引き寄せてみれば突然走る痛み。


「凄い音したけど大丈夫?」
「セ、セーラー服は!?」
「はぁ?」


ひやりとする床に、逆さまな新。
頭の先から爪先まで見るけど、スウェット姿。そしてきょとんとした顔も一瞬で、呆れた視線が送られた。


「…朝ごはん出来てるから」


扉も閉まり一人になれば、よいしょっと起き上がる。
…最近可笑しい。新にむらむらするのは勿論な上に、新があいべちゃんと被ってしまう。
さっきのあの台詞だって、ラジオで聞いたあいべちゃんのだったのに。新に言われても違和感が無かった…むしろ全力で言って欲しい。

新が好きだと自覚してからは、気付いたらついつい触っちゃってるんだけど…こう、不意に上がる悲鳴とか驚いた声が物凄く可愛いし、下半身に来る。…だから刺激が強過ぎてお風呂上がりと寝る前は逃げちゃうんだけど。濡れて艶っぽい上にいい匂いのする新とか、もうホント駄目。あれは体に毒であります。

別に新自身を大好きだから、もう男だからとか女が良かったとか思わない。だけど、その…夢に見たからかもしれないけど、…新の女装が見たい。


「はぁ…」
「あれ、ご飯美味しくない?」
「え、ううん!美味しいよ。ホントにいつもありがとう」
「それならいいけど。今更だけど好き嫌いある?」
「んー特にないかな」
「じゃー野菜も食べなよ」


差し出された人参をぱくりと食べ、思わず頬も緩む。すると新の表情も緩む。…こんな和やかムードに「新の女装が見たい」なんて、とてもじゃないけど言えない。はぁ…どんなタイミングお願いすれば着てくれるのかな?


ーーー


「たっだいまー、新ー」


ふふん、と鼻歌混じりに帰宅だ。何と言っても新を女装させるいい方法思い付いちゃったし、仕事は早目に上がれたし…今日はツイる!もう今日がそのタイミングだっ。

…って、あれ?新の姿が見当たらない。今日はお休みって言ってたし、いつもは台所かテレビ見てるはずなのに。お風呂場も暗いし、お昼寝中かな?


「やっ、ああ…っ、もうホントに駄目…!」


…え、ええっ、新の寝室からあいべちゃんの声が…俺のオーディオでも聞いてるのかな。


「お…お願い…何でもするから秘密にして…?」


…こんな台詞あったっけ?あいべちゃんのキャラは言ったかもしれないけど、俺のオーディオには入って無かったはず。もう何百回もループしてるんだから、掛け合いだって出来る。


「ん…んんっ、も…や、あ…っ」


…えろい。えっちぃ。いやらしい。
やっぱりあいべちゃん最高!…って、そうじゃなくて、何で新があいべちゃんの声を聞いてるんだ?
…俺と一緒の目的とか?

そう思えば違う意味でドキドキしてしまい、こっそりと扉を開いて中を覗き見てみる。


「あー…わかんない」


今の声は新のもの。ベッドに倒れ顔を腕で覆ってる新。もう片手には本が握られている。
…あいべちゃんの魅力がわかんないのか。それなら俺が朝まで語り尽くすけど…ああ、でも俺は新も好きだからどうすれば…っ。

ん…?でも新はイヤフォンしてない。あ、俺にも聞こえたんだからパソコンや携帯から直接か。
でもパソコンも充電されてる携帯も暗い。そして俺のオーディオらしきものも見当たらない。どう言う事だ?

色々と見回し思考を巡らせていれば注意が散漫になり、手元から荷物を落としてしまった。


「ひっ、あ…ああっ、お、おかえ…おかえり…なさい」
「あ、うん。ただいま」
「い、今帰ったの…?」
「うん、新どこかなーって」
「…そっか」


珍しい…てか始めて新が動揺してる所見ちゃった。持っていた本を後ろに隠し、不安そうな、子供が悪い事した時みたいな反応。…いつもの新からは考えられない。ちょっと意地悪してみたい気持ちも湧いてきてしまった。

笑顔もぎこちない新は俺の足元に視線を送る。


「服買ってきたの?」
「あ、ああ…っ、いやー新に似合うかなーって」
「え、いいの?…でもこれ田中のサイズ…それより大きくない?」
「へ、部屋着!こう言うのをダボっと着るのが楽なんだって」
「へー…ありがとう。今日から着るよ」


あ…ああ、俺まで動揺したせいであいべちゃんの事が聞き出せなかった…。別に動揺しなくてもいいように、女装じゃないのから入ろうと買ってきただけだから慌てなくても良かったのに…。つい邪な気持ちが…。
でも見つかったのがシャツで良かった。中にはセーラー服も入ってたのだ。


「せっかくだから今からお風呂入って着るよ。今お腹空いてる?」
「大丈夫だからゆっくりしてきて」
「ありがとう」


「ふふ、田中からのプレゼント…嬉しい」と去り際に聞こえ、脱衣所に入る際にちらりと見えた笑顔に俺の方が赤面してしまった。やっぱり新もマジ天使。ああ、天使なのはあいべちゃんだけだと思ってたのに…俺浮気性なのかな。


「ん?」


新のベッドに置いてきぼりにされた漫画を手に取る。新って少女漫画も読むんだ。
パラパラとめくっていけば、先程この部屋から聞こえてきた台詞がこの漫画に描かれている。表紙のキャラ紹介に戻ればその子は主人公の弟らしい。…弟?
また元のページに戻ればれっきとした女の子の姿だ。偶然にもセーラー服だし、読み進めればなんと女装男子だったらしい。なんてあいべちゃんっぽいキャラクターなんだ。

……ん?どう言う事だ?漫画から声が出る訳じゃないし、アニメでも見聞きしてたならあいべちゃん以外の声も聞こえるはずだ。
ここに居たのは新だけ。…じゃないと怖すぎる。

…携帯が暗いからって音楽かけっ放しだっただけかな。俺でもあいべちゃんの声だけ抜き取るとか出来るし、新も出来るだろう。
そうと分かれば後でデータ貰おう!そしてさっさとセーラー服を奥に隠さないと。今見つかったらややこしい。

落としたままだった紙袋を拾えば、自室に向かったのだった。


ーーー


「楽でいいね、これ」
「う、うん、良かった。うん」
「…どうかした?」
「い、いや…何でも、うっ」
「うわっ、大丈夫?」


だから、だから!風呂上がりの新は危険なの!それに肩とか鎖骨とか丸見えだし…プレゼントしたの俺だけど!
ティッシュで鼻を抑えくれたけど、その時緩い首元から新の体が…っ。
もうひっくり返ってしまった俺を、新は優しく介抱してくれました。


新の女装を見るのは、俺のレベル的にもまだまだ先になりそう。



sideー田中太一end
 

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