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sideー秀


「お姉ちゃん」
「はーい?」
「ねーちゃん」
「なーに?」
「おねーちゃん」
「もう、どうしたの?」


用事も無いのにお姉ちゃんの声が聞きたくて、何度も呼んでしまう。
ソファーで本を読むお姉ちゃんに寄りかかり、そのままずるずると落ちてお腹辺りに抱き着く。


「ふふ、今日の秀くんは甘えん坊さんなの?」


本を片隅に置けば、俺の頭をゆっくりと撫でてくる。
あー…もう、お姉ちゃんマジで卑猥。そんな事優しい声で言われたら変な妄想してしまう。俺が年頃な男子だって、お姉ちゃんが一番分かってる癖に。


「秀くん、大好きだよ」


ああ…ほら、こんなに簡単に俺の欲しい言葉をくれて喜ばせてくれる。やっぱりこの世で一番大切な人はお姉ちゃんだ。


ーーー


「やっぱり甘えてばっかってのもなー」
「例の年上彼女?」
「そうそう、秀はどんな事してんの?」
「何が?」
「彼女と、デートとか家で何してんのかなって。全部引っ張てる感じ?」
「…彼女の好きな事優先って感じかな」


…嘘、ホントは俺が好きな事ばっかやってお姉ちゃんが受け止めてくれてる。


「でも男らしいとこ見せなきゃ駄目じゃね?」
「秀に口説かれてキスでもされたら一発だろ」
「あー…俺らとは経験値も違うしな」


いくら口説いても、何回キスしても寝込み襲っても堕ちてくれないんだけど。
なんてちょっと落ち込むけど、俺は蚊帳の外状態で友達の話は進んでいく。


「彼女に奢るとかって手もあるけど、男らしい姿見せるのが一番なんじゃない?」
「例えば?」
「ほら壁ドンとかあんじゃん?ちょっと強引に迫るとか、風呂上がりに半裸で出てみるとか」
「…俺お腹ぷよぷよだわ」
「ははは、まず筋トレからだな」


笑い合う中、多分誰よりもこの話を真面目に聞いていたと思う。
そりゃ、俺とお姉ちゃんは両想いだけど…お姉ちゃんはいつだって俺を”弟”としてみてくる。

…もしかして、俺がずっと甘えてきたから?いや、だってあんなお姉ちゃんいたら絶対甘えるでしょ。優しいし柔らかいし、気持ちいいし。
でもお姉ちゃんも女だし、俺が男らしい姿を見たらキスぐらいしてくれたりして…。


「秀くん見てたらドキドキしちゃって…今凄くキスしたいの、駄目…?」


あーっ、いい!駄目な訳ないじゃん、もうそっからどっろどろにしてやりたいっ。
お姉ちゃんからそれだけも許しを貰えれば、後は強引にでも押し進めればいい。
そうと決まれば今夜からでも実践だ。友達の話を興味無さ気に振る舞いながら耳を傾け続けたのだった。


ーーー


ご飯いっぱい食べる。運動してる所を見てもらう。
これは既にやったって言うか、日常にある。効果が無い訳じゃないけど、だからって男として見てもらえるポイントでもなさそう。

そうなると男らしさとはちょっと違うけど、ギャップ萌えってのを狙ってみるのが今の所一番効果ありそうかな。俺が動物見てデレデレしてる姿を見せればお姉ちゃんだって…。


「んー?どーしたの?」


あれこれと妄想してる内に運良く太い野良猫が寄って来たみたい。ラッキーっ。


「うわー猫じゃん!かわいー」
「可愛いね」


俺がしゃがみ込めばお姉ちゃんもしゃがみ込み、その猫の頭を撫でていく。
俺もこの猫を甘やかせばお姉ちゃんに…。

ぺちんっ!

伸ばした手を叩かれ、ポカンとしてしまう。


「ごめんね、今からお買い物だから何も持ってないの」
「みゃ〜ん」


え、何でお姉ちゃんにデレデレしてるの、この猫。何がみゃ〜んな訳?こんなデカい図体なんだから普段そんな声じゃねーだろ?

若干イライラしつつ、もう一度猫に手を伸ばす。

ぺちん!

ぺちん、ぺち、ぺちぺちぺちぺち!


「ふふ、遊びたいのかな?」
「そ、そうなのかも」


ぜってーちげーだろ。この猫絶対お姉ちゃんの事好きだわ。だって撫でられたら気持ちいいもんな?そんなの俺がいっちばん良く知ってんだからな。俺が一番撫でてもらってるんだから。

バチバチと猫と睨み合い火花を散らす。
しかしふと猫が鼻で笑い、あろうことかお姉ちゃんのスカートの中に…っ。


「あらら、ほら出ておいで?」
「にゃ〜ん」


ロングスカートの中に無理矢理頭を突っ込んだ猫は、お姉ちゃんがひらひらとスカートを乱したのを良い事に中でもぞもぞと動いている。


「おいっ、出てこい!」
「ひ、秀くんちょっと待って」
「にゃー」


猫を出そうと立ち上がったお姉ちゃんに、すかさずスカート越しに猫を掴み引きずり出してやった。


「猫だからってあんまり調子に…」
「ふん」
「秀くん猫を…ああっ」


ピンク…薄い桃色。何度か見覚えのある布を猫が咥えており、視線も釘ずけになれば暴れる猫を簡単に手放してしまった。


「…お姉ちゃん、今のって…」
「い、言わないで…。ご…ごめんね、お姉ちゃん先に帰るね」


勿論一人で帰す訳にも行かず、猫を追い掛けたい気持ちを抑えて終始真っ赤なまま俯くお姉ちゃんをこの目に焼き付けたのだった。


ーーー


動物作戦はその、色々とあり過ぎてお姉ちゃんの反応も新鮮で可愛い過ぎて…手が出せなかった。俺の方がギャップ萌えにやられたみたい。
お姉ちゃんの事だから猫を捕まえるか、誤魔化していつもの笑顔で割と平気そうに帰るかと思ったのに…いつか野外プレイもしてみたくなっちゃった。

…って、そうじゃなくって!いやそれをする為にもお姉ちゃんを俺を意識させないと。

バッと湯船から上がれば、拭くのもそこそこにお姉ちゃんの元へと向かった。


「お姉ちゃん」
「んー?あぁもう、そんな格好で出てきちゃ駄目でしょ?髪も乾かさないと…ほらシャツ着て座って?」


掃除をしていたお姉ちゃんに迫り、半裸なまま壁際に手をついてみたけど、首から下げていたタオルで頭を拭かれた上にドライヤーを取りにパタパタと駆けていってしまった。
…普通女が男の体見たら恥ずかしがったりするんじゃ…やっぱり俺男として認識されてないのかな。それとも何度も風呂一緒に入ろうとしたから俺の体見慣れちゃってんの?でもお姉ちゃんかわいい。

大人しくシャツを着て頭を乾かして貰いながら、最後の作戦へと移る。


「こんなものかな。もう遅いから明日の用意して寝ないとね」
「うん、あのさお姉ちゃん」
「なに?」
「いつもありがと、俺お姉ちゃんの弟でホントに良かったよ」


素直になって感謝してみる、ってこれもいつもしてる気はするけど。
頭を撫でていた手が止まったのでふと見上げてみれば、一瞬目を丸くしていたお姉ちゃんが少し頬を赤らめはにかんだ。


「私も、秀くんが弟で幸せだよ」


「なんか、改めて言うのって恥ずかしいね」なんて言いながらまた俺の頭を撫でてくるお姉ちゃんに堪らず立ち上がれば、その軽い体を横抱きに持ち上げた。


「わ、秀くん?」
「お姉ちゃんもさ、もう遅いから寝た方がいいよ?ベッドまで運んであげる」
「いいよ。お姉ちゃん歩けるから降ろして?」
「だーめ」


額にキスすればそのままお姉ちゃんの部屋に運び、ベッドへと押し倒す。


「お姉ちゃんはさ、俺の事男に見えてる?」
「…秀くんは男の子でしょ?」
「そー言うんじゃなくって、ドキドキしないの…って…」


もうこうなったら直接聞いた方が早い。
頬を撫でていた手を滑らせ、ぺっちゃんこな胸に手を当ててみれば…。


「え、何で?」
「…も、もうお姉ちゃん寝るから、自分の布団に…」
「何でか教えてくれたら帰る」


手に伝わってくる明らかに早い心音に思わず頬も緩んできてしまう。


「お姉ちゃん」
「……」


弾む俺の声とは反対に、黙り込むお姉ちゃんはぷいっと顔を背けた。


「恭佳」
「…お姉ちゃんでしょ」
「これ、何で?」
「……」


答えようとしないお姉ちゃんの耳元に唇を寄せる。


「ねぇ恭佳、教えて?」
「………秀くんのせい」


肩を竦めて観念したかのように呟かれた言葉にもう舞い上がってしまう。


「あーもうお姉ちゃん大好き!」
「こ、答えたら帰るって…どさくさに紛れて胸揉まないで、秀くんのえっち」
「俺のせいならちゃんと責任取るから、もっとドキドキさせてあげる」
「やだ、も…っ、変な所触らないでってば…んんっ」


ぺっちゃんこな胸に耳を当ててみれば、確かに聞こえてくるドキドキと早い鼓動。…もうあれじゃん、最初から何にもしなくて良かったじゃん。
だって恭佳は俺の、俺だけのお姉ちゃんなんだから、例え”弟”でも俺は誰にも真似出来ない一番いいポジションにいる訳。むしろ弟だからこんなに愛してもらってるしね。
そんで、めちゃくちゃ男として見てもらえてるみたいだし、もう無理とか我慢とかやーめた。
男としてあんまり甘えない方がいいとか、俺の方が身が持たない。今日一日だけでもギブ。

だから今日一日分、今からお姉ちゃんを補給しないと…ついでに発散もさせてくれたら最高なんだけど。


「お姉ちゃーん、俺今日ヤバいかも」
「え、ちょ…ほ、本当に駄目だって…秀くんっ」


枕でぽかぽか殴られながらもちょっと無茶しちゃって…お説教になっちゃったんだけど、それでも今日も幸せ。お姉ちゃんだーい好き。


end

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