ぶっく

□欠陥品
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「ほら、さっさとしてよ。見てあげてるんだから」


「は、はい…ああっ、ゆなちゃん!」


「出したら…分かってる?お し お き だからね」


彼の高ぶった物を靴下越しに軽く踏み付け、顎を見上げさせれば笑顔も振りまかずただ冷たく見下ろす

そんな時間が、延長もあり二時間続けば…客がいなくなった部屋をさっさと片付けた
更衣室に行けば目元を隠してくれている白地に水色の線や柄の入った仮面を外す
こんなの誰が見たいんだ、とげんなりしながら女物の制服も脱ぎ普段着へと着替えた

お疲れ様です、と挨拶をすれば裏口から外へと出る
ママチャリに乗ってさっさと家に帰れば…玄関先で項垂れた


ーーー


昔から、どうにも笑顔を作るのが難しかった
笑顔になれないから愛されなかったのか、愛されなかったから笑顔になれないのか
そんな卵かニワトリ、どっちが先だったなんて分からない

笑う事以外、そもそも表情を上手くつくれない
人間第一印象とはよく言ったもので、仕事を見つける事も困難。見つけても長続き出来なかった
そして行き着いた先が今の仕事。ゲイのイメクラ、別に偏見はない。むしろ希望も聞いてくれていい店長なのだと思う

ゲイ…ではないはず。あの手をプレイをして勃った事はない
そんな俺が店に求めた希望は、”極力接触を避けたい”。そして”笑顔を振りまけない”とも伝えた
じゃー帰れよ、と言われても可笑しくなかったが、人材を求め、尚且つ経験豊富だった店長は俺を雇う条件を一つだけ掲示してきた

それが”女王様になること”だった

そう言われた時、この人はプロだと勝手に察した

ポジティブかネガティブかと聞かれれば、きっと後者だと胸を張って言えるレベル。それも笑顔になれない理由かもしれない
だけど流石にこの時は、出来なかった死んでしまうと思った

生きる為に働くのか、働く為に生きてるのか

そんなもの、親にも頼れない身としてはどっちも最優先だった
死ぬのはきっと、生きるより大変
そう考えると、なんとなく死にたくはなかった

その手のDVDを見て勉強をし、表情は死んだままながら良心がキリキリと痛む中、悪くもない客を叩き時には鞭も使った
相手を見下し、暴言も吐き、ご褒美なんか口だけでお菓子の一つもあげたりしない
良心どころか度々お腹を壊していた。それは仕事中にも襲い、客を放置したこともある

そう、顔には出てないが、この仕事に向いてはいなかった
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