ぶっく

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終業式は終わったが、何やらパーティらしく生徒達は帰らず騒ぎあっている
教室も準備が始まり、体育館や食堂とかも賑わい始め…邪魔臭くなる前にとっとと寮に戻っていた


「…ったく、ただの24日に騒ぎ過ぎだろ。どこのかしこも曲流しやがって…」


「恋人ならここにいるんだから、寂しがらなくてもいいんだよ?」


…日本中のどこに武器使って本気にで殺し合いたがる恋人がいんだよ。右足骨折とかしゃれんなんねーし

松葉杖を付きながら鉢合わせてしまった風紀委員長を除けて寮に進む


「何言ってんだ、今日はクリスマスだろ。ほら、お前にも衣装を用意してやったからパーティに行くぞ」


「……俺宗教興味ねーから」


ツッコミってか怒鳴りたい事は山ほどある。会長とパーティなんかごめんだとか、その手に持ってる女物のドレス自分が着てみろとか、もう消えろとか
だが一つでも罵ればコイツは喜ぶだけだ。それが分からないほどバカでもねー
悔しそうな顔すんなよ、気持ちわりぃ…


「そうだよ。空哉は今日…僕と過ごすから、邪魔させない」


「俺と過ごすんだよ。…朝までたっぷり二人で過ごすってちゃんと約束してんだよ」


「…他所で喧嘩しろよ、俺を挟むな」


お前らが何の理由で喧嘩しようが口出すつもりはないが、俺を間に挟んで掴み合うのは勘弁してほしい。…会長香水くせぇ


「空哉ー、俺と一緒に帰るって…テメーら俺の空哉にまた嫌がらせしやがって!」


「君のじゃないし、ね?」


「おう、俺のだ。ちゃんと空哉専用にケーキも用意してやってるからな」


掴み合いが二人から三人に増え…真ん中にいる俺が、傍から見ると虐められてるみたいだろーな


「俺甘い物嫌いだから」


そう呟けば会長は落ち込み、ミヤは嬉しそうに目を輝かせた
それを風紀委員長は見逃していなかったが、このかごめかごめのような状況から救ってくれる天の声が


「会長ー、パーティの準備の事で…」


「委員長!教室で規格外の事をしているクラスが…」


二人とも顔をしかめたが互いを掴んでいた手を離し…会長は俺の尻を、風紀委員長は俺の腰を掴み左右から頬にキスされてしまった


「またな」
「またね」


状況を理解した瞬間、会長の後頭部目掛けて松葉杖をぶん投げてやった

牙を見せるミヤをすかさず掴めばしゃがみ込ませる


「ミヤ、おんぶ」


「は、はいっ、喜んで!」


一気にご機嫌になったミヤに安心するも、このままでは面倒なのは目に見えている。風紀委員長にいたっては体がいくつあっても足りない
どうしたものかとやはり頭をかかえてしまったのだった


ーーー


「じゃじゃーん!みてみて空哉っ、クリスマスケーキ!」


「お、すげー…流石ミヤ、ありがとな」


クリスマスだのイベントには興味はないが、シフォンケーキが食えるとなれば別だ
ミヤの部屋で余計な物が飾られてない旨そうなシフォンケーキの登場に、ミヤの頭をくしゃりと撫でる


「へへ、空哉からのなでなで…っ。っと、それからはい!クリスマスプレゼント」


「ん?マフラーか、…随分洒落てんな」


うきうきと背後に回られたかと思えば、首元に布が巻かれ暖かくなる
布端を手に取ればミヤに似合いそうなチェックの柄に少し眉を寄せた


「空哉に似合うと思って選んだんだー。広げれば肩や膝にかけれるし、どう?」


目を輝かせて聞いてくるミヤに、否定的な言葉が言えなくなってしまう
まぁ、正直最近寒かったし、有り難く使わせてもらうか


「さんきゅ、…悪い。何も用意してなかったわ。今度何か返す」


「べ、別に物じゃなくても…アーコンナ所二、リボンガー」


わざとらしくマフラーの入っていた袋のリボンを手に取れば俺に見せつけてくる
彼の意図が分からず首を傾げてしまえば、分かりやすい程がくりと肩を落とした


「…ですよねー、うん。知ってたよ。ちょっとやりたかっただけ。…さ、ケーキ食べよう」


よくわかんねーけど、ケーキを食べさせてやればミヤの機嫌はすぐに戻った
あれか、甘えたなのか。俺の弟もこんなのだったら…って、思い出したくもない

ミヤは上に兄貴がいるとか言ってたもんな。…でも俺から甘やかされて嬉しいのかは別問題だな


ケーキを食べ終えれば、二人でクリスマスとは全く関係ない映画を見ていた
画面内では互いに剣を出し張り詰めた空気
それを見てるリアクションとしては可笑しな反応のミヤ


「あ、のさ、その足だと風呂とか大変でしょ?」


「あ?まーな、折れてないだけで左腕も上がんねーし」


トイレでも行きてーのか、もじもじとしているミヤをあえて見ないまま画面を見続ける


「良かったら俺がお風呂にーー…」


「…っ!?」


「へぇ…いい事聞いちゃった」


映画に集中し過ぎたせいか、…まさか窓から音も気配もなく入ってくると思ってなかったせいか
俺の左肩を強く握る風紀委員長のせいで、ミヤの手が被せられようとしていた俺の手は左肩を抑えて蹲ってしまう


「いい顔…君も鍵ぐらいかけないとね。かかってても壊すけど」


「またテメーは…!」


痛がってる暇もなく、喧嘩を始める二人の間に割って入る
…冷静さを失ってるミヤを、口角を上げて挑発する風紀委員長
どちらが有利かなんて目に見えている


「やめろ、ミヤには手を出すな」


「そんな体で僕に勝つ気?」


「こんな奴俺がすぐに…、っ!」


「ミヤ!」


言わんこっちゃない…しかもテーブルに吹っ飛ばしやがって
残ってたケーキが台無しじゃねーか

面倒に思い頭を掻きながらも、痛む足を無視して風紀委員長の脇に入れば加減することなく腹に拳を
怯んだ委員長に間髪入れずに背中にもう一発拳を落とした


「折らなかっただけでどこに入れたかぐらい覚えてんだよ。もう一回言うが…ミヤに手を出すな」


…聞いてんのかな、伸びて動かねぇ
とりあえず風紀委員長をほったらかせば、のそのそとミヤの元へ
尊敬の眼差しなのか、目を輝かすミヤの胸倉を掴めば引き寄せた


「ミヤも、委員長に噛み付くな」


「で、でも…」


「ミヤ」


「…はい」


露骨に落ち込むミヤの頭を適当に撫でれば、落ちている風紀委員長の首根っこを掴む


「部屋汚して悪かったな、俺部屋に帰るわ。ケーキご馳走様」


「く、空哉…」


引き止めた声は弱々しくドアの開閉音によってかき消され、空哉に惚れ直したもののまた上手く行かなかった事を後悔する宮なのだった
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