ぶっく
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「騎士との進展ですか…で、ですが自分も最善を尽くして…そんな!もう少しお時間を…っ」
「何をしてるんだい?」
「き、騎士…」
多分スピリチュアルハムハムでしたっけ…それと話していたんだと思います
王と姫は無事に巡り合う事が出来、今日はもう何度目かの対面
放課後や休日を使っては、その二匹を会わせています
預かるとも言ってみたのですが、何やら付き合い方らしいものがあるらしく断られてしまいました
…それにしても、信じてはいますが普段あまり表情の変わらない、固い真人がハムスター相手に一喜一憂してる姿は…何とも言えませんね
普通は懸念しますが、今はどこか愛くるしくも見えてくるんですから不思議です
「ハムハムが何か?」
「心配無用、交際も無事に進み結婚も近いと。費用は此方が持つので家族で住める家をと考えているのだが…自分か、騎士の家の何方かに置かせて貰う事になると思う。騎士は何方がいい?」
「そうだね、出来れば家において欲しいかな。そうすれば真人が家に来る口実が、これからも出来続けるしね」
本当は私のペットではありませんから。まぁ親に頼めば譲る事も承諾してくださるでしょうが…
「…了解した。感謝する」
ふふ、やはりこちらの免疫は無いんでしょうね。一瞬息を詰まらせた彼は目を逸らしたが、何事もなさそうに返事をくれました
それにしても…
「真人、今日はデートだと言わなかった?」
「そう心得ている。抜かりはない」
「その服とその話し方は?」
「今日は騎士に接触による…あの、だから…で、でーとが、始めてで…必要な物を持ってきたつもり…だよ?」
「…デートには戦闘服も外泊出来そうなリュックもいらないかな」
そんな、目に見えて驚いた顔をされても…本気でこの格好でデートするつもりだったんですね…。彼らしいといえばそうですけど
まぁ、このぐらいは予想の範囲内ですよ
執事を呼べば真人を連れて行ってもらう
「臼井君…?これは…」
「大丈夫だから、彼らに任せて」
身構えていた真人は手を下ろし、不安気に執事に連れて行かれる姿を手を振って見送った
そして十数分でしょうか。戻ってきた彼に、今度は私の方が驚いてしまう
「これは…随分変わったね。凄く似合ってるよ」
「そう言って貰えて嬉しい…けど、これだと武器を装備出来ない」
軽い…と感想を漏らし、セットされた毛先を落ち着かない様子で弄る真人
普通にパンツとパーカーなのに、そのラフさが逆に良く見えてくる
「今日は気にしなくていいから、行くよ?」
「じゃ…これだけ、あ…」
リュックを取ろうとした手を握れば屋敷を出たのであった
ーーー
「映画まで時間あるから、少し買い物でもする?」
「ああ、ここは先日から…来たいと思ってて」
言い直す彼を暖かく見守りながら、ショッピングモールへ入って行く
そう言えば、真人の趣味はどんな物なんでしょうか
ハムハムの事もありますから、やはり占い関係が趣味とか…
「悪く無い。実にいい代物だ」
…なぜそんなに嬉しそうに水鉄砲を手にしているのでしょうか。その前によく見つけましたね
「真人、水遊びがしたいの?」
「否、これの目的は小型で軽量…は、いいとして。見てもらった方が早い…かな、これでもしもの時に臼井君を守れるから」
少し待ってて欲しいと言われ、不思議に思いながら自分も店内を見て回る
文房具類や良さげな物を少し購入すれば、店外のベンチに座っていた彼の元へ近付いた
「ちょうど出来たよ。…と言っても信じられない…よね。大丈夫、威力は伊達じゃないよ」
…何の心配をしてると思われるのでしょうか
何やら細工をした形跡はあるものの、やはり見た目は唯の水鉄砲
見てて、と言われ指を差し、構えた銃口の先は…
「俺ちょっと金持ってくるの忘れてさーお兄さんにちょーっと貸してくれない?」
「い、いや…その…やめてください…」
あれは…絡まれてますね。怖そうな人がひ弱そうな男を、何て絵に描いた展開なんでしょうか
そしてそんな彼に水でもふっかける気なのですかね…火に油を注ぐ事になりそうですが、この距離なら届くことさえ出来ませんよ
そう思い普通に助けに行こうとした矢先
男の人がバタりと倒れてしまいました
隣を見れば「上出来だな」と何やら満足気な彼が…。いや、そんなまさか…
「…真人、一応確認なのですが…それは水鉄砲ですよね?」
「臼井君、敬語になってるよ?これはあれだよ、どっかーんってするやつ。昔アニメでやってたの、臼井君は見てなかった?」
敬語になってることをくすっと笑われてしまうが…そんな事指摘されてる場合じゃありませんっ
いえ、アニメは一応見てましたが…多分彼のジェスチャーからして言いたいのは”空気砲”の事でしょう
「貸しなさい」
「や、でもそれがないと武器が…」
普通のデートに、こんな危ない物はいりません
水鉄砲を取り上げ、取り返そうとしてくる彼の手を取れば目が反らせない程顔を近付ける
「何かあれば俺が真人を守る。それが俺の役目なんだから、真人を守らせて」
「は…はい…」
大人しくなった真人の手を握ったまま引き、騒がしくなり始める店内から出て映画館へと向かったのだった
ーーー
「どうかした?」
「い、いや…すまない」
手が触れたので問いかけてみれば、すぐに手を離し気まずそうに映画を見る彼
そんな事が上映中に何度もあったが、特に何事もなく映画は終わりました
「中々面白かったね。ちょっと遅くなったけどご飯にしよっか。…真人?」
「こ、恋人同士はこうするものだと…教わってきた。行こう」
ああ、なるほど。ふふ、悪い事をしてしまいましたね
先程から手を触れていたのは繋ぎたかったからなようです
誰に教わったんですか?なんて尋ねながら繋がれた手を握り返し、桃色に染まる彼の顔を覗き見ながらフードコートへ向かったのだった
「う、臼井君…一口食べない?」
「ありがとう。じゃー真人も、はい」
「ありがと…おいしい、です」
周りがひそひそと話し込むほど、仲のいい私達の姿。食べ物を食べさせ合うなんて、今時のカップルでも外ではしないでしょうか?
あれ程”普通”を求めていたのに、彼の影響力は大きいようです。何でこんなに世間一般で言う恥ずかしい事をしてるのに、楽しく思えてくるのでしょう
…しかしながら、次に向かったゲームセンターでも事あるごとに接触を求めてくる真人
積極的で済ませるのは簡単ですが…、別れ際にはキスまで求めてくる姿が
別にする分には構いませんよ。…しかしそんな無理してるような、まるでしたくない顔で求めて来られても。私もがっつく程理性が無い訳でもありません
呼んでおいた車に真人を乗せれば、隣に座り家まで車を走らせる
「臼井君…?ごめん、何か間違えてしまったかな」
「それ、朝から気になってたんだけど…誰かに入れ知恵されてるよね?」
気まずそうに目を逸らされるも、素直に頷いた
「でーとが何か…よく分からなくて…。先輩方に聞けばとりあえずくっついて行動するものだと…後はき…きすして、一夜を共にするとも伺った…よ?」
「…それで、その通りに朝から無理をしてやってきた、と」
「無理してきた訳じゃ…」
理由が分かり、自分もうっかり喜んでしまっていたこともあり、つい棘のある言い方をしてしまった
それを察した彼も、俯いて語尾が小さくなっていく
面白半分ではなく真面目に昼頃に聞いておけば良かったですね…後悔しても仕方ありませんが
まぁ、彼に悪気がないのはもう分かってますから。…次からは私に相談するように伝えておきましょうか
そう思って落ち込む彼の肩を叩こうとすれば、先に彼が口を開いた
「本当に、無理はしてない…よ。前にも言ったけど、き…臼井君の事は好きだから…。今日だって、生きてきた中で感じた事のない気持ちを経験する事が出来た、の。だけど何もかもが初めてで、不安で、ここも痛いんだ…」
そう言って抑えたのは自身の胸
感情表現が苦手な彼だからこそ、素直な意思が痛いほど伝わってくる
…やはり、彼を恋人にしたのは間違いありませんね。こんなに私を好いてくれるのは、彼以外にいないでしょう
それなのに配慮が足りなかったのは私の方です。…悪い事をしてしまいました
次からは不安にさせませんから、さっきの事は許してください
そう気持ちを込めて、真人と唇を重ねた
「臼井君じゃなく、隆太って呼んで」
「りゅ…隆太…?」
「ん、ありがとう。真人」
そう言ってもう一度唇を重ねる
二度の口付けに目を回す真人はやんわりと私の肩を押した
「ま、待ってくれ。これ以上の事は知識が…」
「いいよ。全部俺が教えるから、俺だけを頼って」
「わ…わかった。そう言ってくれるなら、これからよろしくお願いします」
多分彼の中での私の優先順位は随分上なんでしょうね。有難い事です
これでもう下手な入れ知恵に合う事も…無いと思いたい
落ち着かせる様に彼の髪を撫でていると、くいくいっと裾を引っ張られた
「それで、次は?」
「次とは?」
「き、きすの…次」
他にもあるんだよね?と純粋な眼差しを向けられ、…何だかその先を知ってる自分が汚れてるような気がしてきました
何と言ったらいいか、穢れを知らない子供に問いかけられてる気分です
「また今度。真人のここが痛くなくなったら教えて」
「了解した…です」
真人の胸を指差せば、自分で胸を抑えて頷いてくれた
一度家に寄りハムハムをゲージに戻せば、彼の家まで送る
その間もずっとハムハムと話し、謝ったり赤くなったり忙しい真人
急かされていたのは、ハムハムも原因の一つみたいです。そう言えば進展がどうとか…朝から様子も変でしたものね
彼に言われた住所まで辿り着き、車から降りる彼を見送る
何やら伝えたそうな彼に窓を開けた
「今日は本当にありがとう。その…また、…いや、何でもない。お休み」
「真人」
帰りそうな彼に一声かけ、手招けば身を屈めた彼の身を引き寄せた
「お休み、また近い内にデートしようね」
「は、はい…」
真っ赤に染まる彼に笑顔で手を振れば車を走らせる
唇に残る彼の感触に頬が緩み、思わず指先で唇に触れてしまう
お礼を言うのは私の方ですよ。またデートしましょうね、真人
end