ぶっく

□ハロウィン
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「六宇、トリックオアトリート」


「は、はい…っ、これ…」


用意していた包装もしてあるお菓子を帝王へ差し出す
少しは喜んでくれるかなって…料理なんか得意じゃないから、結局既製品になっちゃったけど…
手の絆創膏が増える度に帝王を心配させてしまい、本当に申し訳なくて…何をしてるかも言えなくて心が苦しかった
それで既製品って…言い訳出来ない上に、帰ったら失敗作を後二、三日食べ続けないといけない…

でも、変な物なんて絶対食べさせれない

受け取った帝王の顔は…予想していたどれでもなかった


「あの…いりませんでしたか…?」


「いや、いる。食べる」


…甘い物、好きじゃなかったのかな…。でもそうだと思って甘くないお菓子は選んできたのだ
そもそもいらなかったらトリックオアトリートって聞いてこないだろうし…。そうは思うも、やはり見るからに帝王の表情は暗く、肩も落としていた


「そうだ、六宇」


「は、はい…?」


落ち込んでいたかと思えば、何やら眩しい視線を向けられ小首を傾げてしまう
身長的にも見上げなければならず、そんな俺から帝王はふと視線を外した
…またやらかしてしまった、この癖早く治さないといけないや


「今日は何の日だ?」


「ハロウィン…ですね」


「なら言う台詞があるだろう」


も、もしかして…帝王も俺に何か用意してくれてたり…?そんな、まさか…いつもあんなに親切にしてくれるのに、その上に俺に何か用意したりなんて…嬉しさを通り過ぎて申し訳なくなってしまう
そもそも帝王達は貰う側であり、何かをあげてる姿なんて…あの同室者以外に見たことがない

で、でも、せっかく誘導してくれてるんだから、早く答えないと…っ


「志織さん、トリックオアトリート」


「その続きは?」


「続き…?あ、お菓子くれなきゃ悪戯しちゃうぞ?」


「お菓子はない」


や、やっぱりそうだよね…はぁ、何か良かった。一安心してしまった
お返しとかどうすればいいかわからないし…常日頃の親切だって、全然返し切れてないから、その上にプレゼントなんでもらったらパニックになってしまう

貰えなかったリアクションとしては可笑しいかもしれないが、ホッとしている俺に帝王の影が被る

また首を傾げそうになるのを我慢しながら一歩、また一歩と下がれば一歩、また一歩と帝王が近付いてくる
そんなに広くはない部屋、すぐに壁に背が付いてしまい、片手を壁についた帝王は身を屈め俺と視線を合わせた


「お菓子はない。つまり六宇がすべき事は何か、わかるか?」


「え、えっと…悪戯…?」


問題に正解出来たようで、目の前で頷いてくれたが…俺は固まってしまう

む、無理ムリむり…っ、え…?帝王に悪戯って、出来る立場じゃないし、そもそも何をすればいいの?

そっ、それより…っ


「し、志織さん…近いです」


「嫌か?」


狡い聞き方、嫌なんて思った事がないのに…首を横に振る俺に、帝王は首筋に顔を埋めてくる
背に回された腕、密着して伝わってくる体温に、心音がどんどん早まっていく

行き場のない手が宙を彷徨い、…意を決すれば帝王の脇腹に触れた


「悪戯しますからね…っ」


「…っ」


自分でもよくわからず、しかも緊張し過ぎて声を裏返しながら宣言すれば、彼の脇腹をこちょこちょと擽ってみる。…五秒くらいが限界だったけど
ぜ、全然動じてないみたい…少しも動かない。流石帝王…だけど少しだけ息を引く音が聞こえた


「志織さん…?大じょ…、…っ」


腕の力が強まったかと思えば、押し付けられた物に顔に熱が集まってくる
そして顔を上げた帝王と、また視線が絡む。その表情はいたって真剣なもの


「トリックオアトリート」


「もうお菓子はあれしか…」


「ならば、わかっているな?」


そ、そんな…この台詞って何回もやり取りするものだったっけ…


擽りどころでは済まなかった悪戯に、来年からは沢山お菓子を用意する事を決めた六宇なのでした


end
 

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