ぶっく

□君が光
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「はぁ…」


また、無い…
トイレから帰ってくれば、机の上に置いていた教科書がなくなっている
思わず大きな溜め息が出てしまうも、それを気にする人はここにはいない

昨日のテレビの話とかお昼はうどんかラーメンで悩んでるとか、次の授業当てられたらどうしようとか

何気ない会話でざわつく教室に、その何気ない会話を俺としてくれるクラスメイトはいない。…友達もいない

思い返せば一度や二度くらいは一緒に遊んだことがあっても、”友達”と言える人物を生きてきた中で作ったことがない。…作れなかったのだ

とぼとぼと重い足取りで廊下を出れば隣の、その隣のクラスへと足を向ける

机に座り友達と楽しげに話す…その尻に敷かれてるのは紛れもなく俺の教科書だ
何度も何度も教室書を持ち去られ、”お前のって証拠、どこにあんの?”と表紙をひらひらとされおちょくられるのが悔しくなり、表紙にでかでかと自分の名前を書いたのだ。ちなみに小学校高学年辺りからそれを実行し、始めて親に見つかった時は怒られてしまった


「宮前…教科書返して」


「でさ、その時のあの顔ったらーー」


話し掛けても返事はなく、盛り上がり続ける彼のグループ
ちらりと時計を確認し、もうチャイムが鳴るのも間近
肩を落としながら自分の教室へと引き返した

…教科書忘れは減点、これで何回目になるか。塵も積もれば山となり、今学期も俺の成績は悪くなりそうだ


ーーー


「はぁ…」


また、無い…今度はお弁当がない
体育から帰ってくればお弁当がなくなっている
いつもの事とは言え、溜め息が出てしまう。だけどやはりそれを気にしてくれる人は周りにいない

とぼとぼと重い足取りで隣の、その隣のクラスに向かっていれば丁度教室から出て来た彼。その手には俺のお弁当箱が握られている

後を追うようについて行けば、またいつもの場所。校舎裏の自販機の近くの段差
そこに腰掛け自分の分のおにぎりを食べ始める彼
その傍に置かれた弁当を取り返せば、居場所のない教室に帰るのも何だが面倒で彼から随分離れた所に腰掛けた

これもまた、いつものこと


「何でいつもそんな遠くに座んだよ」


「……俺と一緒に食べてるなんて思われたら困るでしょ」


「…あっそ」


特に何もないまま、お弁当のご飯を頬張る
友達と食べるお弁当は、同じお弁当でも味が変わってくるのかな…
これがカウントされるのか分からないけど、気付けば彼以外とお弁当を食べた事がない


彼と出会ったのは幼稚園の頃
その頃は友達とまで行かなくても、別に普通には遊んでいたらしい。自分の記憶は曖昧ながらお母さんはそう言っている

何やら目を付けられ始めたのは小学生の頃だ
物が取られる、捨てられる、無視される、閉じ込められる、殴られる…後はトイレに入ってたら上からホースで水をかけられたりと、一通りの虐めは受けてきた
その主犯格が彼、宮前。…下の名前は覚えたくもないから知らないってことにしてる

彼の容姿は非の打ち所がなく、勉強は完璧とまではいかないにしろいつも上位な上にスポーツは万能
髪色とか明るいし髪型はツンツンしてライオンみたいだし誰彼構わず気軽に声をかけるし、俺からすれば近寄りがたい雰囲気でしかないのに”やんちゃっぽくて可愛い、格好いい”と女子からは騒がれている

…まぁ、そんな人気者な彼が俺に目をつけたたんだ。周りも一緒になって虐めてくるのは必然である

行ってもまともに授業を受けれず苦痛でしかない学校。それでも親にこんな現状を知られたくなく休むことが出来なかった

日々やつれていく俺とは逆に楽しそうな彼。俺を虐めてはいつも笑っていた
そんな彼の虐めから、今でも信じがたい出来事が起きてしまい…人に触れられるのが苦手になってしまった。…あの時、助けてくれたのも彼だったけど、原因も彼なだけに恨みの方が強い

でもその日を境に虐めらしい虐めはなくなってくれた。今みたいなよくわからない嫌がらせは受けるけど、あの頃と比べると大分楽である


「なぁ」


「……なに?」


気付けば人とまともに目を合わせて話すことも出来なくなっている
だから彼が俺に話し掛けたのかは分からなかったけど、一応小さく返事を返しておいた


「…何でもねーよ。さっさと教室戻れ」


罰の悪そうにそう告げた彼は立ち上がり、すたすたと去ってしまった

時折見せる、何か言いた気な間のある話し方

しかし”どうしたの?”なんて聞き返す関係でもなく、俺も気にしないまま空の弁当箱を持って教室へと戻ったのだった
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