ぶっく

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「あ、山坂くん!今帰り?途中まで一緒に帰ろうよ」


「え、あ…今日はちょっと用事が…」


向けられた笑顔に取り出した靴が手元から落ちてしまい、地面に転がっていく
それを慌てて拾いに行きながら靴を履き替え、上履きを靴箱へとなおした


「何の用事?」


「…買い物して帰らないといけなくて…」


間違っては…いない。帰りに何か買うかもしれないし…
触られたらまだ痛むけど、病院に行く頻度も少なくなり治りつつあるあの時の火傷

…火傷する前は津坂先輩の笑顔にどぎまぎしてたのに、今はなんともない
なんとなく今は顔も見たくない…何故か胸がきりきりと痛む

軽く会釈して別れたつもりが、隣を歩く津坂先輩


「買い物ってもしかして近くのスーパーじゃない?俺もそこに用事なんだー」


「そうですか…」


傷の具合とか、いつからバイトに復帰するとか店長と話し合う為に呼ばれてるのだ。下手に寄り道や回り道も出来ない

でも、何の用事なんだろ…リアンちゃんなら土日か祝日にしかいないはず。そして今日は金曜日だ
普通に買い物なのかな…


「山坂くんって料理とかするの?」


その言葉に首を横に振る
出来ることと言えばお湯を沸かして注ぐぐらいだ
家で手伝おうにも邪魔になる方が多いし、調理実習も食材に触れることすら阻止されてしまっている


「そっか、じゃーお使いなんだね。興味があるなら教えよっか?俺結構得意なんだ」


「気持ちだけ、貰っておきます…」


親切な人…自分に何か得意な事があっても、こんなにあっさり誘うなんて俺には真似出来ない

話してる内に胸の痛みも薄まり、何気無い会話が少し楽しいと思ったのも束の間
目的地であるスーパーにつけば、一人駆けていく彼


「ちゃんと来たよ、お仕事お疲れ様」


「ううん、来てくれてありがとう!」


り、リアンちゃんが…リアンちゃんが喋った…っ、小声だったけど…。おまけにハグまで…
ほ、ほら、うちの学校の下校者も多いのにそんな事するから…攻撃的な視線が笑顔のリアンちゃんに集まっている


「りあんちゃーん、あそぼー?」


二人の空気なんか読めない子供が間に入り、手を握ってゆらゆらと揺らしている
流石に喋らず大きく頷けば子供の手を取り一緒にぐるぐると回ったり踊ったり…すごく機敏。俺みたいに困ったりもたもたしてない…

満足したのか帰る子供に手を振るリアンちゃん。その動作にこっちにも喜びが伝わってくるほど
それは先輩も同じようで、いつもは内側から見てた頬の緩んだ笑顔を今日は少し後ろから眺めた

何か楽し気に話し、それにリアンちゃんも答えてるけど…聞きたくない。また胸の痛みも戻ってきてしまった

目を背けるように店の入り口ではなく裏口から店内へと足を進めた


ーーー


「良かったよ、じゃー明日からでも頼めるかな?」


「はい、あ…でも今のリアンちゃんの人はいいんですか?」


「山坂君に頼みたいんだ。…彼女も悪くはないんだけど、少しイメージが崩れると言うか…誰でも一緒かと思ってたけど、代わってから気付くね。僕は山坂君のリアンちゃんの方が好きだよ」


「あ、ありがとうございます…」


う、嬉しい…あんなしっかりしたリアンちゃんを見たからかな、余計に嬉しく思ってしまう…俺でもいいんだって
褒め慣れてないせいで耳まで赤くなってしまい、それも恥ずかしく意味もなく猫っ毛を伸ばすように髪をときながら俯く
そんな姿をくすりと笑われてしまうも、店外に出るまで頬の熱は引くことはなかった。ついでに頬まで緩んでしまう

明日から、また頑張ろ…っ


「…あれ?何かいいことあった?」


「…っ、あ…津坂先輩…」


どうしてまたここに、と思ったけど先に「俺の家この近くなんだ」と答えてくれた。きっと彼女を待ってるんだろう
前のように軽く会釈して帰ろうとすれば、目の前には津坂先輩。そして顔の横には彼の手
何故か追い詰められ、出てきた扉に背をつく


「ねぇ、何があったの?」


「し、仕事を褒めてもらえて…」


「誰に?」


「店長に…」


な、何でこんなに聞かれなきゃいけないんだろ…口調もどこか強く悪いことを責められてる気分…


「そっか、それは良かったね。山坂くん見るからに真面目に仕事してくれそうだもんな」


しかしそれは気のせいかと思うほどすぐに解放され、またいつもの笑顔な彼の姿に持っていた鞄を落としかけてしまう
首を傾げてしまいそうになるも頭を下げれば鞄を強く抱き、今度こそその場を後にしたのだった
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