ぶっく

□会いたい人は
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「今日はここまで、敬礼」


「ありがとうございました!」


汗一つ流さない訓練長がその場をされば、バタバタと倒れていく訓練兵達
俺もへとへとになりながら給水所へと行き水を浴びるように飲む

…やって行ける気がしない

痛む腰に余計そう思ってしまうも、帰る場所はない
あの時の傷が治ってないのか、俺は腰痛持ちになってしまっていた

でも、ここが痛む度に思い出し、忘れられない記憶

我が儘な王の身勝手な戦略により…戦地となった地元は荒らされ、敵国に焼き払われてしまった。その時に両親は俺と兄を逃がす為に命を落としてしまった
その兄も、襲って来た敵兵と戦い…後の姿は見ていない

逃げてる最中もまた襲われ、背後から鈍器で吹っ飛ばされてしまった
痛みで蹲る俺に、向けられた剣先
しかしその時に誰かが俺を庇って襲って来た相手を倒してくれたのだ

無駄のない動き、次々と倒れていく敵国の兵達
その姿に目を奪われてしまった

だけど、倒してくれただけで俺に手を差し伸べる事はなく去ってしまった
月明かりにちらりと見えた横顔はとても綺麗で印象に残っている

暫くして痛みに慣れれば、まだ動く足で近くの隣国へ逃げ込み、命が奪われる事はなかった。
疲れて木にもたれかかりながら眠り、翌朝目覚めた頃には…帰る場所は、跡形もなくなっていた

食うものにも困り医者になんか見てもらえるはずもなく、辿り着いた先は訓練所
どこの配下かなんてわからないまま、ただ家族から守られた命を大事にしたい一心で入団したのだ
後になってこの国は中立国だと分かり、戦力よりかは市民を守る為の力を育成する訓練所であった

食べ物もある、風呂もある、年の近い仲間だって沢山いる
…だけど訓練が辛いつらい…

他の人達は”この国の平和を保ちたい”とか”国王に仕える為”とか入団する前から確固たる目的があり、辛くても耐えていたが…俺はと言えば、他の事を考えてる余裕がなかった
俺の居場所を奪った王が憎くない訳じゃない、兄と俺を引き裂いた敵国も憎い
だけど、だからって”復讐してやる!”と言う気持ちは湧いていない

…こんな平々凡々暮らしていた、農作業くらいしか出来ない俺一人に、何が出来るって言うんだ

周りから見ればまだ若い年だったけど、親の跡を継ぐとも思っていたので夢もなく、妙に冷めてはいた
だから中立国なここは、有り難い場所でもあった。得た力が戦力の一部になるなんてなんかごめんだ

でも、そんな俺でもただ一つだけ
あの時助けてくれた人に、お礼が言いたい

それだけが俺の目標であり、希望であった
あの人を想うことで、家族を失った悲しみで自暴自棄になる事を止めてくれていた
生き生きとは励めないけど、ご飯を食べて寝て、また訓練を受けようと思えていた

そして、命を繋いでくれたこの国に仕えながら、助けてくれた彼を探そうと思っていた
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