ぶっく

□俺っていったい…
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「王子ー、新しい衣装なんですけど、どうですか?」


「うん、可愛いよ。持って帰っていい?」


「衣装なんだから持ち帰り禁止だぞー、後西宮は自分の持ち場に戻る」


「はーい…」


あーもう!後ちょっと先生のツッコミが遅かったら良かったのに…少しも会話出来なかった…

今度舞台で着るらしい、アリスをモデルにした水色のワンピース
それを返すべく衣装係の所へ向かう最中、歩く度にヒラヒラとする裾に……気が滅入りここから居なくなりたくなる
いつも間にか女装に慣れてしまったことや、それで役得したがってる自分に泣きたくなる


「どうだった?王子の反応は」


「OK貰えました」


「あー良かった。ホントに西宮が着てくれてから助かるよ。後はお父様役のーー」


衣装を脱げば体操着へと着替え、自分の持ち場へと戻る

ダンボールに紙を貼り付けそこに背景などを描いたり、画用紙を切り貼りして飾りを作ったり…それが俺の役割。俗に言う裏方です

普通の男物の体操着に身を包む俺に、さっきあんなに瞳を輝かせていた王子こと笹野先輩からは言葉掛けどころか視線さえ一切無い


王子が俺を見てくれるのは…俺が女装した時だけなんです


それがわかったとは言え、俺はいったい何をしてるんだ…
気が滅入った時の方が没頭して仕上げれる為、この日も先生から褒めてもらえました



ーーー


裏方の仕事は嫌いじゃない、むしろ好き
でも入部した時は俺も舞台に立つつもりでいたのだ

そんなに人数もいないから、裏方だけって人は俺くらいで
一緒に背景を描く同級生も、衣装係の先輩や後輩も劇には出ている

俺も最初は日の当たらない役で出ていたんだけど…演技力が高い訳でも見た目が良い訳でもない俺は劇中のナレーションやライト、効果音などの役回りに行かれるようになっていき…今のポジションへ
まぁ興味本位で入っただけで、自分に伸び代がないのもなんとなくわかってたから丁度良かったんですけどね

普通なら雑用ばっかりで飽きて辞めそうなんだけど、辞めれないのは……


「どうか僕と一緒について来てくれませんか?」


「えぇ、是非一緒に、私に何でも申し付けてください」


はぁ…今日も王子…かっこいいです…

俺と同じ事を思ってる人がいるようでどこからか賞賛する声が聞こえ、作業の手が止まり王子を見つめる人達も多い

一番見慣れている演劇部内でも、読み合わせですら王子にはどこか人を引きつける魅力があった

身長は180以上あり、長い演劇をこなす程よい筋肉もついている
でも荒いイメージではなく逆にクールな感じ、必要なこと以外で話す所を見たことがない
顔も目鼻立ちが整っているので、どんな衣装も物凄く似合うのです
勿論実力もあるので笹野先輩には主役が多く、それで付いたあだ名は王子

そんな王子を引き立てられるのなら雑用でも何でも引き受けますとも!

俺も周りと一緒で先輩の虜になってしまったのです
ただ話し掛けたいとか共演したいとかは無く、影から見つめるだけ
俺もあんな人になれたらなぁ…と憧れを強く胸に抱き、邪魔にならない程度に見つめるのが日常である

だから王子と話した回数なんて、事務的な物を除けばほぼ無い

そんな俺が入部してから一年が過ぎ、黙々と裏方の仕事に励んでいた時に事件は怒ったのです
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