ぶっく

□ルールは単純 理解は難題
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「これが契約書だ、読んだらここに拇印押せ」


「あ、あの…これって…」


「あ?」


「いえっ、何でもないです」


その光のない真っ黒な瞳で見つめられれば黙る他ない、もう魔法に掛けられるみたいに…嘘です、めちゃくちゃ怖いからです

何でこんな野生の虎並の威圧感の人が目の前にいるのか、真剣に紙を読む振りをして頭を整理したい

簡単に言うとよく漫画とか、最近ドラマも放送されていたベターなあれ
借金が払えなくなり身売りと言うか奉公に出されるってやつ…だと思う
それがさっき起こり、俺は目の前のこの人(心の中だけでは可愛い名前で怖さを緩和したいのでトラちゃんと呼ぼう)の召し使いとして働かされるれしい

学校から帰って宿題も後回しにしてぼけーっと寝ていたところを騒音で起きたのだ
何事かと思えば土下座をする両親とそれを見下ろす強面な三人組、その中の一人はトラちゃんである
「どうしたの?」なんて焦って両親の元に駆け寄り、小声で尋ねれば首根っこを掴まれたのだ


「こいつに払わす」


声変わりも済んだ自分がいくら頑張っても出ないであろうハスキーボイスでそう言われ、残る二人がトラちゃんの目配せを受け俺の部屋から制服やら鞄やらを持ち出してきたのだ
状況が飲み込めていなかった俺だが、両親が涙ながらに「何とかするから息子だけは」と必死になる姿が衝撃的に残っている

咄嗟に「大丈夫だから、この人優しい人だよ」なんて俺はアホかと思う台詞を、両親に会うのが最後かもしれないのに強がりだったのか、ただのおべっかか分からない気を回せば大人しくトラちゃんの後を着いて行ったのだ

…あんな親の姿を見たくなかったのが一番なんだと思うけど
マザコンやファザコンとまではいってないにしろ家族は好きだ
俺の身一つでなんとかなるならーっと、本当に漫画の主人公なような気持ちになってしまい……それを深く後悔している

連れて行かれる車の中で体をバラバラにされてしまうとか、実験に回されるとか、そんな不安ばかりで冷や汗が止まらなくなっていた

けど、身構える俺にトラちゃんが告げた言葉は
”使用人として働くこと”
”学校にはこれまで通り通わせてくれる”
住み込みで長い時間働かすことで借金返済に当てる金額を増やすと言うことだった。そして払い終えれば返してくれるらしい…なんだ、本当に優しい人じゃないか

…結局じたばたした所でこうなっていたんだ
ならせめてもスムーズに、尚且つトラちゃんの機嫌を損ねなかったんだから良しとしよう

一通り状況の把握を済ませれば何時に何をするかと細かく書かれている紙に目を通す
…これはいい、普通と言うか有り難いくらいだ
問題は最後に米印で書かれている文書だ、そこについて質問したかったのだ


※メイド服着用の場合給与は通常の倍となる。尚下着を着用しなければ一日毎に手当を付ける。


…何これ、トラちゃんってそう言う趣味なのかな
そうなるとここにはメイド服の男がうじゃうじゃと…しかもノーパンかもしれない。……おえぇ
でも、逆で考えればメイドさん達が下着を付けないまま仕事を…ってダメだダメだ、ここで余計な事考えて変な顔してるのがバレたら尻子玉でも抜かれてしまいそうだ

とりあえず一通り目を通せば最後の紙に今日の日付と名前を書き、親指にインクを付け紙へとスタンプを

こうして俺の非日常な生活が始まるのであった
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