ぶっく

□3
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「今日は出掛ける」


「畏まりました」


朝起きれば既にいなかったフラス様
魔術やその研究でもしてらっしゃるのだと思い、いつものように朝飯の支度をする為に起き上がった

少し気を抜けば崩れ落ちそうな程節々が痛い…
明け方まで解放されず、寝るには寝たけど仮眠に近い
どろどろに汚れたシーツを見たくなくて、一番に洗い場へと丸めて突っ込もうとしたのだけど…

…あれ?
部屋の場所は同じものの、いつもの大きな桶がない
代わりにあったのは見たこともない白い…機械であろうものがそこにあった
今更ながら部屋を見渡せば前とは違う…
そう言えば意識がなくなってから…違う場所へと移られたのか…

とりあえずもたもたしている時間はなく、片隅へとシーツを置いた

水浴びを済ませ洗濯した服に腕を通す
何度も着回しているから綻びや汚れが目立つが、さっき着てた服か、これ以外に着替えを持っていないから仕方ない…

無から有は作り出せないが、ボタンが取れたくらいなら魔術で簡単に直せたのに…
針仕事の知識は辛うじてあっても器用じゃないのでそれも出来ず、朝から何だか気落ちする一方

前とそんなに変わってなかった調理器具にほっとしながら、きっと美味しくはないであろう朝食を作り、出来上がった頃にやって来たフラス様にコーヒーと一緒に差し出した

淡々と無言で食べるのを横目に、出掛けられる為の上着とかを用意していく

はぁ…でも良かった…
出掛けてる間にやる事やってしまえばゆっくり休める


「ルーン」


食べ終わった食器の後片付けをしていれば、玄関先から呼ばれたので手を拭き慌てて駆け寄った


「な、何でしょうか…」


用意した上着を間違えたのか…いつもなら無言で出掛けていくのに不安が募る


「キスしろ」


「はい…?」


突然の言葉に俯いていた顔を上げて、ぽかんとしてしまった


「二度も言わせる気か?」


「い、いえ…っ、すみません」


機嫌を損ねられるくらいならキスなんて何度だって出来る
そう思うもやはり気恥ずかしく、頬が熱くなるのを感じながら背伸びをすれば軽いキスを贈った


「…行ってくる」


「行ってらっしゃいませ…」


疑問が胸の中にいっぱいだったが、玄関の扉が閉まるまで深々と頭を下げ続けた




ーーー


す、すごい…

使っていいものか悩んだけれど、桶も洗濯板もなければ洗濯が出来ない

”洗濯機”の説明書を読みながら蓋を開ければ中に衣類と洗剤を入れ、ボタンを押してみたのだ

すると水が出てぐるぐると回り、勝手に洗ってくれる…っ

他にもコンロにはタイマーが付いていたし、”掃除機”もあって、その音に壊したんじゃないかとびっくりしたけど、そう言う機械らしい

慣れないものの楽な掃除機を掛け終えれば、雑巾掛けする雑巾がない…

代わりにあったのは先端に四角い板みたいな物が付いた棒と、濡れた厚いティッシュの様なもの

これも側にあった説明書を読み、板にティッシュを噛ませれば…立ったまま雑巾掛けが出来る…っ

腰が痛くてたまらなかった為、その便利さに感動しつつ楽に掃除を終えることが出来た

夕御飯の準備も済ませ、予想以上に早く掃除も終わりベットへと寝転ぶ

それにしても何であんな機械ばかり…フラス様が使う為?
でもフラス様が家事をしている所なんて、コーヒーをいれる所すら見たことがない
…だから逆に便利な物ばかり揃えたのかな?
家だって真新しいし、今日は召喚された者達にも会ってない
一人暮らしでも始めるのだろうか…

……そうなると、やはり僕は消されてしまうのか…
消される事はもう諦めがついているからいいのだけど…こう、いつ消されるか分からない状況は落ち着くことが出来ない

気になっても機嫌を損ねられては困るので聞けないし…とりあえずフラス様が帰ってくるまで寝て体力を回復しないと…

そう思い、微睡む意識を手放した
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