ぶっく

□一目惚れしました
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「会長様ーっ」


「椿様ーっ!受け取って下さーいっ」


授業が終わり、本来なら帰宅か部活動に励む時間
なのにドンドンバンバンと生徒会室の扉を叩く音が鳴り止む気配がない


「…これじゃあ会議になんねーな」


「ホントですね、…こんな奴のどこがいいんだか」


「おいこら、聞こえてんぞ。はっ、自分がモテないからって妬くなよ」


「そのモテてるせいで今日の会議は潰れそうですけど、あー羨ましいです」


「もう真貴もその辺にして、会長行ってきてあげて下さい。雑務はしておきますので」


「ん、書記はこーんなに可愛げがあるのに…このドチビときたら」


「誰がドチうぐぐっ」


「椿も、あまりからかってないで行こう。俺も一緒に行くから」


「…お前はサボりたいだけだろ」


「いやいや、俺は椿が心配で…」


口を塞がれている俺を気にも留めないまま、会長と副会長は生徒会室から出て行ってしまった

扉が閉まってから手が離され、俺は机へと突っ伏す


「羨ましいよぉっ、ファンの子達が羨ましいっ」


「はいはい、とりあえずその食ってかかるのを止めようよ」


「だって会長が側にいるから…緊張して余計な言葉が次から次へと…」


「…昔っからの癖って言うか生きていく為の本能だもんね。小さいから舐められないようにって」


「小さい言うなぁ…」


幼馴染みからの慰めなのかトドメなのか分からない言葉に更にいじけてしまう
「はい仕事」と押し付けてる幼馴染みはやはり慰めてはくれてないみたいだ
鼻を啜りながら電卓を叩いて数字を紙に書き込んでいく
…今頃会長とファンの子達は仲良く楽しく過ごしてるのかな…あぁ想像すると泣きそうだ

俺は両親の遺伝子をしっかりと受け継ぎ…身長が150cmもない
小学校の頃は少し小さいくらいかな、なーんて思っていたら中学生になって迎えた成長期
この成長期は俺のところにはやってきてくれず、ブレザーや制服が小さいと嘆く友を何度羨ましく思ったか
昔からスポーツや食生活、質のいい睡眠など、一般的に言われている背の伸びそうな事は一通りやってはみたけど…効果はなかった。遺伝子って凄いね、俺ぐれそうだよ

結局背の事以外、容姿も中身も平々凡々だったのに…だからかもしれないけど、俺がまだ背を気にしていない幼い頃からチビだとからかわれ、そこから派生して馬鹿だのなんなの
色々言われ続けそいつ等を見返す為にも勉強をし、運動は…背の為にと人一倍してきた
おかげでチビって言う人は少なくなったけど、気付けば言葉まで強くなってしまい…高校生になった今は取り返しがつかない程素直になれなくなってしまった


「会長の為に生徒会入ったのにね。この調子じゃ嫌われる一方かも」


「う…せ、接点なく終わるより…マシだもん」


「ふーん、じゃーその嘆きを毎回聞かされてる僕は?いっそ玉砕してほしいって思うよ」


「…すみません、ごめんなさい。頼むから笑顔で言わないで」


幼馴染みと共に入学した男子校で…会長に一目惚れしてしまったのだ
特別優しくされた訳でも、むしろ生徒会に入るまで口さえ聞いたことがなかった。そこらにいるファンと俺は余り変わりない
邪な気持ちで生徒会に入るも、それが周りに知られたら叩きのめされてしまう
だから尚更、こんな態度になってしまって…これじゃーホントに何で生徒会に入ったんだか


「チョコレート、どうするの?」


「…持ってきてない」


「そ、じゃーそれ済まして帰ろう。僕用事あるし」


嘘、ホントは持ってきている
今日は2月の14日、バレンタインデー
まさか自分があげる側になるなんて思ってもみなかったけど…いや、いっそ会長から貰えたら幸せで空飛べそうだけど

その前にも会長の誕生日や運動会に文化祭、ハロウィンとか催し物がある度にこじ付けてプレゼントしようと試みてきたけど…結局渡せないまま
下駄箱や机の上、ロッカーまでパンパンになってる為、置く事も出来ず…それに、俺が渡した所ですこぶるからかわれると思う
前は手作りで作っていたお菓子も、今やどうせ渡せないだろうと自分の好きなお菓子をラッピングもせずに買っている。これじゃーただのおやつだ

はぁ…と何度目か分からない溜め息をついた


「会長沢山チョコ貰うんだろーなぁ…副会長とも仲良いし、入る隙ないって言うか…」


「ファンは兎も角、副会長は会長に興味はないよ。僕らと同じ、幼馴染みな付き合いだから」


ハッキリとした口調に尻込みしながら「そうかもしれないけどさ…」とぶつくさ言う俺を他所に淡々と仕事を終わらせていってしまう

結局、仕事が終わっても会長達は帰って来ず、幼馴染みもさっさと帰ってしまった

鞄を持てば渡せないと分かっていても校内を会長を探すがごとくぐるりと一週回る
だけど目に入ったのは抱え切れないほどのチョコを持った会長
…一瞬俺のチョコを投げ付けて転かしたい気持ちになったが、すかさず違う可愛らしい男が恥じらいながらチョコを渡していたので何も出来ず…あんなに貰っているんだから俺から貰っても迷惑だよな、と言う結論に至ってしまい、そのチョコ菓子を自分で頬張りながら家へと帰ったのだった


ーーー


「あ、雨だ」


「ごめん真貴、携帯貸してくれないかな?布団干したの親知らないと思うから」


「いいよ、はい。充電器も貸そうか?」


「ううん、すぐ済むから。ありがと」


時間は放課後、場所は生徒会室
外は薄暗く雲行きが怪しかったけど、どうやら俺らが帰るまで持ってくれなかったみたいだ

はい、と携帯を渡し電話を掛けるのを横目に目安箱に入っていた意見に目を通す
ちなみに目安箱といってもアンケートのような物で、昼間に流してほしい音楽から花壇に植えてほしい花まで、どうでもいいようで反映されればちょっと嬉しくなる内容だ


「椿ごめーん。部活でタオルとか干しててさ、取り込んで来ていい?」


「あ?いいぞ、さっさと行ってこい」


「あ、僕も行きます」


「ありがとー、じゃーちょっと行って来まーす!」


あぁ、同じ部活だからか
なーんてぽけーっと二人が去るのを見つめ…急に静まり返ってしまった室内に事の重大さに気付く

か、かかかか会長と…二人っきり…っ

い、いやでも十分もしない内に戻ってくるはずだし…短時間な二人っきりなんて何度かあったじゃないか
何をわくわくどきどきしてるんだ俺っ
緊張するな緊張するな…俺すぐ表に出るんだから…っ

そう無理矢理、密かに深呼吸すれば何とか自分を落ち着かせるも、ガタ、とかコロンッとか外から何やら荷物が崩れた様な音が聞こえてきた


「何の音だ?」


「誰か転んだんじゃないんですか?」


「そんな、チビじゃあるまいし」


「俺そんな頻繁に転びませんよ!」


「俺は”チビ”としか言ってないぜ?俺から見たらこの学園の殆どがチビになるけど…自 意 識 過 剰」


きぃーっ、ムカつく!
そんな”もーお ば か さん(ハート)”みたいなノリで言うな!怒りたいのに可愛いって思ってしまった、もうやだぁっ
ほぼ2mもある身長の会長のどこに可愛げがあるんだっ、全部だよ馬鹿ぁっ

恋は人を狂わせるとはこの事か…っ
一人もんもんとするも今は止めてくれる、ツッコミをくれる幼馴染みはいない

言い出したのに席を立とうとしない会長
仕方なく立ち上がれば扉を開けようと手を掛ければ…

ガタッ、ガッ、ガッ


「え…?ちょっ、誰か!そこに居るんだろ?大丈夫か?大丈夫なら何か荷物引っかかってるから取ってくれ!」


「何騒いでんだよ」


と…扉が…開かない…

扉に耳を当てても遠くの方で足音が聞こえるだけ
それもすぐに消えてしまった
…え、え?誰か転けて、俺らが騒いでる内に帰っちゃったの?
ちょっと、カムバック!今すぐ開けてっ


「か、会長…扉が…」


「あ?…開かねぇ。お前何やったんだよ」


「何で真っ先に俺を疑うんですかっ、絶対さっきの音のせいでしょ!」


「…まぁ次期にあいつらが返ってくるだろ」


何その”ちょっと無理あったか”みたいな渋い顔はっ
さらっと話題変えるな、一言一言に傷付いてるんだからな


「そうですね…一応メールを…あっ」


「トイレとか言うなよ」


「違います、ちゃんと来る前に行きました。…じゃなくて携帯、さっき貸してしまって手元になくて…会長、副会長に一応連絡して下さいよ」


「…あー、俺もさっき電話使いたいとか言ってきたら貸しちまった」


…な、なな何と言う絶望的な状況…少女漫画にはよくあるシーンだけどリアルにそんな状況はいらない。嬉しくてしんでしまう
でもでも落ち着け、どの道十分前後で二人が戻ってくるだから状況は何も変わらないんだ

そうと分かればやる事は一つ


「アンケートの結果纏めましょうか」


「そうだな、…にしても現金な奴らだよな。追加して欲しい食堂のメニュー、目安箱から紙はみ出てんだけど」


「…箱の形も変わってますもんね」


蓋を開けてひっくり返せば…折りたたまれた紙が机いっぱいに。てか何でひっくり返した会長
とりあえず中を見て同じ物を重ねたりして纏めていく


「カツにコロッケに天ぷら…やはり揚げ物系が多いですね」


「でもまぁ、票が多いのがメニューになる訳じゃねーから。手間や金額、栄養面からも見て決めなきゃいけないからな」


「…じゃーこの豆腐カツとか豆腐ハンバーグにします?」


「…却下、そんなんで腹満たされるか」


やっぱ会長になるくらいなんだから真面目なんだなぁーっと肝心したのも束の間
何と無く金銭面も栄養面もいけそうなメニューを上げれば即答されてしまった。やっぱり会長の好みが関係してくるのか、そこが一番割合占めそうなのは気のせいか


「揚げ物とかよ、日替わりメニューにあんだろ。唐揚げだって単品であるくらいだし」


「そう言われるとわざわざ追加するのも…いっそサイドメニューに絞ります?青汁とかプロテインありましたよ」


「…売れなきゃ意味ねーだろ。でもサイドメニューとか、デザートに目を向けるのも悪くないな」


…何故冗談が通じない。俺を可哀想な目で見るのやめて下さい
プロテインなら需要あるでしょ。青汁だって牛乳と割れば背が伸びるかもしれないし……効果が目に見えてないけど

とにかく、メインを除外し他に目を向けてみる。…誰だ枝豆って書いたの、この字高校生じゃないぞ

えっと飲み物系は…自販機あるから外すかな
後はお汁粉、きな粉餅、それに…


「あ、アイスとかありますよ、これとか良くないですか?」


「アイスなぁ…でも冬場どうすんだよ」


「う…期間限定とか…」


「却下だな。腹壊すと困るし、年中食える物じゃないと」


くそ…一理あるから頷くしかない…シェイクとか飲みたかった
となると…お汁粉も却下されるな
きな粉もとかみたらし団子も汚れるとか言われそうだし
年中食える物は…っと


「ケーキ…ってありますけど」


「それいいじゃねーか、メニューにデザートってなかったろ?アイスと違って年中食えるし」


「いやいや、でも売れなきゃ困るでしょ。ケーキって皆好きでしょうか…」


「美味いんだから好きだろ。それに、勉強の前に甘い物食べると言いって良くいうだろ?学力向上にも繋がるかもしんねーし」


「あぁ、ブドウ糖が脳にいいとか
…でも手間が、それに太りませんか?」


「ならサイズを小さくすればいいだろ」


いやぁ…そういう問題じゃ無いような…
それにしても今まで否定的な意見しか言ってこなかったのに随分乗り気だな…ケーキ好きとは意外だ可愛い

票数があればと思い、整理していくもやはりケーキはその一票しかなかった
よけていたその票に再び目を戻す
…会長がいいなら、それで決まりだけどさ。この入れた人と会長しか好きじゃなかったらどうす…ん?
この字って見覚えが………あ、この字って会長のだ

……え、えぇっ、会長もアンケート答えてたの?なに、それで何気無い顔して話をケーキに持っていきケーキ押ししてたのっ?
残念、俺会長の事好きだからこの字の払い具合とかで分かっちゃったよ。あーダメだニヤけてしまうっ
これ以降どうやって話聞こう、あぁもう話題変えよう!


「ち、小さければいいかもしれませんねー。あ、でも副会長達の話も聞かないと…いやーそれにしても遅いですね」


「ホントだな、何やってんだか」


…これで話が終わってしまい、何だが妙に重苦しい空気に
とりあえずどれが何票だったか書き留めれば散らばった票も片付けた

………やることがなくなってしまった
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