ぶっく
□可愛い俺のお嫁さん
1ページ/4ページ
「ただいまー」
「おかえりなさーい」
クリーム色な癖のある、撫でれば柔らかそうな髪は直ぐに触れたくなってしまう
周りも釣られてしまいそうな可愛らしい笑顔で出迎えてくれたのは俺の奥さん…で、いいのかな。名前は平仮名でいぶき
「ご飯にする?先にお風呂にする?」
「先に風呂入ってくるよ。ありがと」
上着と鞄を受け取り、少し屈んだいぶきの頬にキスをすれば軽く頭を撫でて風呂場へと足を向けた
「はぁー…」
髪、濡れてなかったし、また俺が一番風呂か…先に入っていいって言ってるんだけどな…
いぶきの好きな少し甘い香りが漂う入浴剤の入った湯船に浸かり疲れが取れていくのを感じながら、いぶきはホントにいいお嫁さんだとしみじみ思う
…俺には勿体無い気しかしないけど、手放す気はない
昔は違ったみたいだが、今や男同士が結婚しても可笑しくない世の中だ
少子化やら色々あり、めっきり女の数が減ってしまったらしい
そのせいもあり悪化の一途を辿る治安に頭を悩ませた政府が、優秀な科学者を集めて対策を練ったとか
そこで出来たのが男でありながら子を産むことが出来る、牝と言われてる部類だ
ホルモンの注射とか、…絶対にそれだけじゃないと思うが色々投与したらしく、見た目は女と間違える程。それに本能的に惹かれてしまう雰囲気が牝にはあった
牝から産まれてくる子は男か牝か女
子孫繁栄の為か、牝なら美形が確実に産まれるのだ
そのおかげか人口は増え治安も元に、前より穏やかだ。殺人事件や窃盗も一ヶ月に一度ニュースにあるかどうか
人口が右肩上がりな今は恋愛も自由で、今は女同士で子が出来るように研究が進められているらしい
いぶきを好きになったのも、好きな所は色々あり守ってあげたいとは思っているけど、最終的に本能的に惹かれたのかと思ったが…結婚を決めた時、いぶきからも自分の両親からも衝撃的な話をされたのだ
”可愛らしい男=牝”な世の中で、いぶきは男だったのだ
付き合っても一切交わりたがらなかった理由はこれらしい
家族を持ちたがっていたいぶきに結婚を辞めるか悩んでいた時に、両親に呼び出され…真剣な二人に何事かと思っていれば
「…この顔で、牝か」
鏡に映る自分を見ながら苦笑が出てしまう
いぶきのような触れたくなるような、構いたくなるような雰囲気は毛頭なく、平々凡々な顔に体型
いぶきが高いせいもあるが、身長だって負けてしまっている
しかもずっと俺がいぶきを抱くものだと思っていたのに
平凡な俺が牝な事が両親は恥ずかしかったようで、ずっと男だと周りに通してきたらしい
だがいざ結婚となると隠してる訳にもいかず打ち明けたのだとか
まぁ、そのおかげで結婚に踏み切れたから良かったんだけど
牝や女はちやほやされモテる世の中で、一度も俺はそんな経験はなかった。それが普通だとも思っていたしな
随分損だとも感じたけど、どっちが抱くだとかも含めて、もういぶきと一緒になれるならそんな事気にならなくなってしまった
「風呂ありがとな。今度先に入ってなかったら一緒に入るから」
「た、大希…っ」
料理を温め直しているいぶきに近付けばこっちに向かせて唇を奪った
美味い飯を食べた後は一緒にテレビを見たり、今日あった些細な事を話し合ったり
いぶきと一緒にいれるのが何より幸せだった…けど、少しだけ、いぶきからすれば大きな問題が、すれ違いが俺らにはあった