ブック2

□囚われの身
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「妊娠されたら困るだろ?俺どっちでもいける口だし」


夫婦で、奥さんが妊婦さんな客のレジ打ちをしていれば、ふと蘇る言葉

そう言われてもう何年か
あれがショック過ぎてそれ以降の恋愛が出来てない、言わばトラウマになっている

扉の開閉によって鳴り響く愉快な音に我に変えれば、ありがとうございました、と後ろ姿なその客に頭を下げた


ーーー


就職に失敗する他は、まぁ平々凡々だった19年の俺の人生
コンビニのアルバイトをし続けてはいたので、そんなに贅沢は出来なくともお金に困る事はなかった

バイト仲間に飲み会に誘われて行ってから、俺の人生が変わってしまった
行った先は飲み会と言うなの合コンで、…俺は数合わせだったんだけど

5対5で自己紹介なんかしながら飲んだり食べたり、ベタな感じで
女の子は同じ大学の集まりだとかで、結構可愛い子が集まっていた
それを俺を誘ってきた奴も喜んでおり、「やっぱ晃尋(あきひろ)がいると違うなぁー」と、言うぼやきが聞こえてきたのだ

晃尋って確か…と男子メンバーの顔触れを見てみれば…あぁ、と一人で全てを察する
そして誘ってきた奴の耳を引っ張れば「ここ、お前の奢りな」と耳元でこっそり囁き、苦笑い零す彼は渋々頷いた

男子メンバーの中に、どっかのアイドルかモデルの様なイケメンが混じっていたのだ
黒髪で真面目そうな風貌なのに、ちらりと見えるピアスは左右で多分3つ。それに高そうな時計を身に付けている
それが栗花落(つゆり)晃尋、年は25でIT関連のお仕事だとか、どっかのドラマの合コンにでも出て来そうな、完璧に女の子はこいつが狙いだった
現に5人の瞳はそちらに向いていて、料理の取り分けなんかもう喧嘩でも始まるじゃないかと言う雰囲気で私が、私がとトングを取り合う
ちなみに俺の分は取り分けて貰えないので、綺麗な箸で自分の分を確保して一人でむしゃむしゃ頬張り酒を飲む

まぁこれで、本当に人数合わせなだけだったら俺も誰か一人くらい…っと言う気持ちになっただろう、それはもう誘った奴を奢ってやりたいくらいに
だけど仮に晃尋が上とすれば他の3人は上の下、中の上くらだ
俺は自分で言うのもあれだが、中の中、あるいは中の下くらいだと思う

…俺はこいつ等の引き立て役な訳だ

まぁ、そう早い内に察する事が出来たので、下手に女の子に格好つける訳でもなく腹を膨らませていった


何度目かの席替えが終わり、誘った奴もいい子を見つけたのか俺の傍から離れて行った
他の一組も抜け出し、そろそろ俺も、トイレに行く振りでもして抜け出そうと思っていた矢先
あのイケメンが隣に腰掛けてきたのだ


「さっきからずっと一人飲んでるけど、お目当ての子はいなかった感じかな?」


いるにはいるけど、俺には興味ないし…てか貴方は俺の傍に来なくても充分引き立って輝いてますよ
むしろ貴方が俺に話しかけるから女の子から睨まれてますけど

…とは言えないので曖昧に相槌を打つ


「あ、このお酒も美味しいよ?はい」


飲むとも言ってないのにグラスに注がれたお酒
残すのも勿体無く、場を悪くするのもあれだったのでお礼を言えばそのお酒を口にした

正直美味しくはなかった、と言うより味わった事のない味
舌が慣れれば上手くなるか、と何口か口にしたがやはり変わらなかった

すると急に酔いが回り始め景色が歪んでくる


「大丈夫?」


「らい…りょーふれふ」


大丈夫だと言ったはずなのに、口からは訳の分からない言葉が出てしまった
やばい…飲み過ぎたか…
そう頭を抱えていれば、腕を引っ張られ立ち上がらされる


「ちょっとこの子顏洗わせてくるね」


立てば更に酔いが周り、もう二本足で立っている事もままならなくなる
彼に寄り掛かり促されるがまま、お手洗いへと連れて行かれた



ーーー



「あっ、んんっ…ふぁっ」


「…っ、今回はいい子に当たったかも」


まるでその手のDVDの様な声が個室の中に響き渡る
いったい誰が喘いでるかなんて、働かない頭では分からない
足は肌寒いのに付け根部分だけは異常に熱く、また苦しくもある

付け根部分だけでなくお腹の方まで、まるでそこだけお湯にでも浸かってるように熱くなる

彼の手が離されれば糸が切れた人形のようにその場にへたり込む

方針状態な俺に彼はまず自身の携帯で俺の今の姿を写した
それから俺の財布から出した免許証の写真も撮り
最後は俺の携帯を弄り電話番号等の情報を抜き取っていった
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