ブック2

□3
1ページ/3ページ



「ねぇ、響」


そう呼び掛けながら揺さぶられる
その声はとても綺麗
だけど今日は休みなはずだ
まだ惰眠を貪りたくてその声に背を向ける


「響、起きて?朝ご飯食べない?」


「…今日休みだって」


朝ご飯は食べたいけど、後30分後に食べたい
そもそも休みの日の朝飯なんてみんな寝てるからいつも昼飯と兼用だ
せっかく起こしてくれてるのに怠慢な気がするけど、気怠く返事を返す


「…起きないとキスするよ?」


「出来るもんなら…」


この顔にキス出来るもんならすればいい
家族全員から不細工だと言われてるんだから、出来るはずがない

それにしても何て起こし方…朝から悲しくなってくる
何だかこのまま寝てる気分じゃなくなってしまい、怠いながらも瞼を開いた

そして…ひっ、と息を引いた
それ程の、もう夢みたいに綺麗な顔が目の前にあったからだ
しかも息が掛かるくらい近く…目を見開き、かなり慌ててその相手の肩を押せば距離を取った

…当たり前だが、うちの家族にこんな美形はいない


「な…何でキララさんが…」


「おはよう。今日一番最初に映るのが俺で嬉しいよ。響は寝顔も可愛い」


「は…?」


ぽかんと口を開き、呆気に取られる
混乱中の頭では上手く理解出来ない

…後から思えば、この時随分間抜けな面を晒していたと思う
そんな俺にキララさんは頬を緩める


「起きないならキスするよ?」


「起きます…っ」


がばっと飛び上がるようにベッドを出た
その様子を楽し気に見つめるキララさん
…もう朝から物凄く体力と言うか気力を使ってしまい、げんなりと猫背になる
そんな脱力している俺の手をキララさんは優しく取り、その薄く色付いた唇を手の甲に押し付けた


「リビングに行こっか」


「……」


もう何も言えないままリビングへエスコート

そんな王子様みたいな優雅なキララさんとは対照的に、挙動不審になっていた俺を"まるで借りてきた猫みたい"と、朝から家族に大爆笑されてしまった




「朝からイケメンのご飯食べれるなんて幸せーっ」


「しかもレストラン以上に美味しいし!」


「イケメンは何でも出来るのか…」


「お口に合って嬉しいです。良ければいつでも作りますよ?」


「「マジで!?」」


…姉ちゃんはまだしも、頼むから母さんまでテンション上がって姉ちゃんと同じ言葉使わないでほしい
フォークだけでむしゃむしゃとびっくりするほど美味しい朝食を食いながら、父さんの意見には同意かな、とか思っていた
思っていただけで、俺は会話に参加していない
ちらり横目でキララさんを見れば屈託のない笑顔で、流石言葉で商売する仕事だけあり
キララさんはうちの家族と和気藹々と会話を弾ませていた


食い終わってキララさんに興味津々な母さんと姉ちゃんに後片付けを命じられた男二人
キララさんも片付けるとは申し出てくれたが、女二人がそれを阻止した
一秒でも長く話したいらしい

俺が洗い物をしていれば、父さんが心配そうに尋ねてきた


「どう言う知り合いだ?何か弱味でも握られてるのか?」


「や…そう言うんじゃないんだけど…」


「響とは親しい間柄だとか、だから響の家族に料理振る舞いたいとか、是非これから仲良くしたいだとか。…本当に友達なのか?約束でもしてたのか?」


「約束は…昼からはしてたけど、家に来るとは…」


俺もよく理解出来てないけど、とりあえず父さんに友達だと伝えておいた

毎日会いたいと言ってきてくれるキララさんを何とか週一にと頼み、今日がその日
行きたい所や連れて行きたい所を色々言われたのだが、ストー…じゃなくて、よく会ってた時に凄く視線を感じたので出来るだけ人目は避けたかった
だから良ければキララさんの家へ、と頼んで決まったはず…だったんだけど

お昼に駅で待ち合わせだったはずだ


洗い物を終えれば携帯を見てみる
…やっぱり記憶違いじゃなく、お昼に駅で待ち合わせって書いてある
時計に目をやるが、短針は10を差すところ

頭にハテナを浮かべていればキララさんが父さんを呼び、俺も後をついて行く
手招きされて座ったのはキララさんの隣、両親と姉ちゃんは向かいの席だ
自然な流れで俺の手が握られ、驚いてキララさんを見れば…眩しい笑顔を向けられる
そしてその瞳を両親達の方へ向ければ、更に驚くべき事を口にした


「お義父様、お義母様、それにお姉さん。響君を俺にください、一生大切に…責任持って幸せにします」


「は…?」


「「「えぇ!?」」」


…俺だけじゃなく家族全員がぽかんと、誰一人としてキララさんの言葉を理解出来ていない
そしてその矛先が、キララさんに向いていた三人の瞳が一気に俺へと向けられる


「「「響!?」」」


「は、え…あ、あぁそうっ!今日キララさんの家に遊びに行くって約束してたんだっ。れ、礼儀正しい人だから…ほらキララさん行きましょうっ」


「響?まだ話は終わってないよ?」


「つ、次来た時でっ。じゃー行ってきます…っ」


対象しきれないとすぐさま判断し、もう逃げるかのようにキララさんの背を押せば、辛うじて財布をひっつかんで一緒に家を飛び出した
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ