ブック2

□騎士とお姫様?
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sideー隆太


「東京から来た臼井隆太(うすいりゅうた)です。宜しくお願いします」


「きゃーイケメンよイケメン!」


「東京からだって、彼女はいますかっ?」


いません、と笑顔で返せば湧き上がる歓声。まだ私の性格も知らないのに、顔がいいってのは本当に得だと思います

父の仕事柄、転校したのはこれで何度目か
見慣れた風景に笑顔が崩れる事もない


「はーい静かに、質問は休憩時間にしなさい。臼井君、席は小谷君の隣だ。彼から色々教えてもらうといい。小谷、任せたぞ」


「…白銀の騎士とは彼の事だったのか、ならば次に襲いかかるのは…」


はくぎん…?騎士とか言いました?

先生が指差したのは一番後ろの空いている席。ベターである
しかしその隣の席になる…いかにも普通そうな彼から発せられたのはもはや日本語ではないのかと疑いたくなるもの
驚いたような顔と一度目が合うも、下を向いた彼は何やら書き込んでいるようです

その様子に隣りから、先生から溜め息が


「……やっぱり田井中にしておくか」


「いえ、僕が彼の面倒をみます。さもなくば彼に災いが……あ、そのお母さんが人には親切にしろって」


先生の視線がキツくなれば口ごもり、”またお母さんかよ”とクラスの笑い声が響く
先生も渋々頷けば私は席へ
反対側の田井中さんは残念そうにしながらも、席につけば「何かあったら言ってね?」と、親切そうに声を掛けてくれた

本当なら不安が和らぎ、彼女を頼ってしまうところ

でも転校を繰り返してきた私には見慣れた景色、聞き慣れた言葉
次の休憩時間は質問責めだろう
それから昼休みは運動に誘われ、放課後は部活の勧誘
それを断れば寄り道のお誘いだ

初めは私も周りに合わせていたものの、またいつ転校するか分からない
友達を作ってもその場だけ
”絶対に連絡する””俺達はずっと親友だ”と言われても、もって三ヶ月が期限
随分チープな親友である

でも別にそれを恨んだりはしない
穏やかに過ごせるならそれでいい。それが楽しい
そうするにはどうするか
当たり障りなく笑顔で振る舞うのが一番

笑顔で田井中さんにお礼を告げたところで授業が始まる

初めの頃は隣に教科書を見せてもらったりもしたけど、今やどんな教科書も家にある
家庭教師もついているので、習い終わっている勉強を聞き流しながら一応板書していく

テストが近く皆真剣に話を聞き、話し声もない教室の中
今回は何の部に入ろうか…なんて気楽な考えをしなが、ふと隣を見てみれば…


………え、え?何してるんですか?
机に勉強道具が一切なく、あるのは飴、アメ…あめ
大量の飴を、何やら物凄く考えながら並べている

先生は注意しないのですか…死角なのですか

…関わらない方が、関わり合いたくないタイプの人間ってのは把握
だけど当たり障りなく学園生活を送る為、見て見ぬ振りは出来ません


「小谷君、先生に怒られますよ」


「心配は無用、心得はある。それより騎士の未来が不味い」


………一応、サボっている人に声を掛けた。それで周りからの目は大丈夫だろう
小谷君の話してる事がほぼ分からないまま、視線を黒板へと戻す


「せっかくだから臼井、これ解いてみるか?」


「あ、はい。わかりました」


席を立てば黒板へ
チョークを手に答えを書けばまた湧き上がる歓声


「正解だ、途中の式も模範解答だ。みんなもこんな感じで解くように」


席へ戻ればうきうきとした田井中さんの顔


「凄いね、やっぱり見た目通り勉強出来るんだ」


「たまたまですよ。前の学校でもう済んだ範囲なので」


そう小声で会話をすれば顔を正面へ戻す
……でも、何か視界の端っこでちろちろと動く物が

気になって小谷君の席へ視線を移せば…

は、ハムスターが…ハムスターが机の上に…
しかも散らかしてあると思っていた飴玉は迷路のように配置されており、それをハムスターが進んでいっている
…注意すべきなのか、でも気のせいか注意してどうこうなるタイプに思えない…

不安過ぎて目を離せずにいれば、大人しく進んでいたハムスターが飴を掻き分け迷路を直進
ゴールに置かれていたチーズを食べてしまったのです


「ダメだ…ダメだぞそんなの…」


駄目なのは君です、と大声で訴えたい
頭を抱えて項垂れている小谷君
ずっと見ていたままでいれば、反対側から声が掛けられた


「臼井君どうしたの?そっちに何かある?」


「いや…小谷君っていつもあんな感じなんですか?」


「小谷君?うん、いつもあんな感じだよ?変かな?」


「変でしょ…だって…え」


あれがいつもの彼なら、私も風景として受け入れないと…
そう思い見てみれば、机は綺麗に片付けられ開かれたノートにペンを走らせている

…私の見間違い?いや、そんなまさか


「ちょっと変な発言するけどね。中2病…だっけ?多分それだよ」


…厨二か中二か知りませんが、そんな人を見かけた事はありましたけど、こんなんでしたっけ…
確か、アニメで使われた掛け声やそれを真似たポーズを決めて遊ぶとか。他人との交わりを拒むとか、風を感じる、魔法や妖精を信じるとか、一応知識はありますけど

…なんか、それとは違う気が
いや、自分が知ってるのがその一部なだけであって、今のも何かの真似かもしれない

そうこうしている内にチャイムが鳴り授業が終わった
下手に動くのもあれかと思い、ゆっくりと片付けていれば男女問わず囲まれてしまった


「東京ってどんなとこ?芸能人とか友達にいるの?」


「何のスポーツが得意?」


「す、好きな女の子のタイプは?」


何の質問から返そうか、毎度の事ながらちょっと厄介に思ってしまう
どうしたものかと思っていれば、小谷君が立ち上がりこちらへ
”いっぺんに質問しちゃわかんないだろ”とかお決まりのセルフで助けてくれたりして…


「騎士はこの時間、この階の校舎を回らなければ……その、臼井君の校舎案内、行ってきます」


キツい視線にまたも口ごもり言い直す彼は、私の手を引き廊下へと連れ出してくれた

…助かった。もしかして助けてくれたんですか…?
発言がおかしなだけで、案外普通なのかも…


「時間がないので今はこの階を次は上の階をと紹介していく。昼休みは倉庫や更衣室を回る。いいか?」


「ありがとうございます」


…うん、逆にハッキリした口調のせいか頼りがいがあるようにも思う
下手に大勢や女の子に質問されるばかりの案内より助か…


「ここが職員室、中には境界線がありそこを超えると騎士に剣が振り下ろされるので注意が必要。それから次はーー」


…助かる、のかな。いや、場所さえ案内してくれればいい。割り切ろう


「ここが第二コンピュータルーム。来週は近寄らない方が吉、必要なら四階の第一を勧める。それからーー」


入り口はどちらかまで教えてくれる彼は、度々振り返り私がついて来てるのを確認しながら先を歩いていく


「そしてここがトイレである。騎士は今日の放課後は使わない方がいい、大事な短剣が使い物にならなくなる。しかし新たな剣を手に入れる、個人的に両刀使いは…かっこいい。さぁ時間だ。戻ろう」


…やっと分かったけど、騎士ってどうやら私の事みたいです


こんな調子で授業中は変な事を、終われば呪文のような、占いなんでしょうか…それ付きの案内を真顔でしてくれた

お礼を伝え迎えた放課後
挨拶もなく小谷君はさっさと帰ってしまいました


「臼井ー、好きな部活があったらこれを顧問に提出してくれ。案内の紙も渡しておくから」


そう言われ渡されたのは入部届けとどこが何部なのか書かれた紙
”テニス部に””吹奏楽部に”と案内してくれる人達が群がり、ペン一本を尻ポケットに差し込めばクラスメイトに色々説明してもらった

教えてもらってない部は紙を見つつ小谷君に案内してもらった記憶を頼りに向かう
どこでも歓迎され、是非是非とせがまれてしまった

運動もいいけど人数が少ない…やはり田舎なのだと思えてきます
そうなると文化部
吹奏楽部や美術など遅くなりそうなものはパスかな、家でしないといけないことが沢山ありますし
それなりの活動で、それなりに楽しい部…写真やパソコン辺りでしょうか

まぁ、一週間以内に決めればいいでしょう
そう思い時間も結構過ぎてしまったので、紙を胸ポケットにしまえば一度トイレに

…そう言えば案内の時にトイレがどうとか、いや、あれは唯の戯言ですよね
気にしないままトイレから出ようとすれば…頭に鈍い痛みが走り尻餅をついてしまった
痛む頭を抱えながら視界の端に移るのは…白と黒のボール


「何やってんだよー」


そんな声が外から聞こえてくる。どうやらサッカー中に飛んできたようです


「う、臼井じゃんかっ、大丈夫か?ごめん!今保健室に…」


「大丈夫ですよ。当たってませんから、はいボール」


「そ…それなら良かった。ありがとな」


手間や時間が惜しかったので、適当に流せばトイレに来た彼にボールを渡し、その場を後にした


自宅へ戻れば頭を冷やしながら勉強
するとノックが


「坊っちゃま、どこか怪我はありませんか?」


「いえ、ありませんよ。どうしてです?」


怪我をしたなんて言ったら大騒動だ
こっそりアイスノンを隠せば、執事が出した物に顔が引きつる


「これ、坊ちゃんのポケットから…大事になされていた物かと思いまして」


気に入っていたペンが真っ二つに…あ、あの時。ボールがぶつかった時に尻に敷いてしまったんだ…
引きつる頬を誤魔化す様に咳払いをした


「今日は色々記入する事がありまして、その時落としてしまったんです。階段の上から下へと、捨てるタイミングが無いものでそのままポケットへ入れてしまったんです。ご心配掛けてすみません」


「ああ、そうでしたか…お怪我がなくてなにより。これは試作品でして丁度今日改良された本品がーー」


悔やむ間も無く新しいペンが手に入り、今日はラッキーかもしれない
何か忘れてる様な気もしますが、握り心地のよくなったペンを走らせていればその考えが消えてしまったのでした
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