ブック2
□あにまるプラトニック
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「辰美(たつみ)くんと卯美(うみ)先輩って実は仲良いですよね。黙っていても思いあってて、とっても素敵です」
「お前…」
「はぁ…君には適わないよ」
おー、すげ…ゲームの1シーンが今、目の前で起きている
邪魔しないように歩みを止めて少し引き返せば、何でもないように掲示板に目をやる
特にこれと言った情報はない
まぁ、帰宅部な俺には関係ないが、テニスやら野球やらバスケやら…大会に行くとか書かれている
文化部もコンテストを受賞したとか
…コンテストの受賞は個人名が載ってるくらいだからまだいいけど、大会には出場し過ぎだろこれ…
現実はこんなにほいほい出来ないぞ…
…何て、普通に生きていればそうそう出てこない愚痴を心の中で零す
「…普通に通り過ぎればいいのに、いつも…何してるの?」
「お、俺?あ、いや…別に、特には…」
うわ、まさか喋り掛けられると思って無かったから馬鹿みたいにきょどってしまった…
白髪に赤目と言う、これまた現実ではそうそうお目にかかれない容姿。しかも超絶な美形
さっき彼女に話し掛けられていた藤佐江(ふじさえ)の兄、卯美だ
「…次は…普通に、ね」
「あ、はい…」
言葉が少な過ぎてよく分からなかったが、とりあえず頷いてしまう
俺の反応に特に表情を変える事もないまま、彼は去って行った
…あれほどのイケメンと話すのは、何だか尻込みしてしまう
主人公の彼女が肝心な場面意外、ほぼ無言で彼の言う通りに流されてしまうのが分かった気がした
―――
「お兄ちゃーん!新作っ、新作が出たの!」
「はいはい…今度は何?」
「『あにまるプラトニック』一緒にやろー?」
アニマルは良いとしてプラトニックって…それ本当に新作か?
プラトニックなんて最近聞かないが…確か精神的な肉欲のない付き合いだとか、そんなんだったよな?
見せ付けられるパッケージはいかにもって感じにピンク色だけど…紳士的な乙女ゲームって事ですかね
無断でゲーム機を起動してディスクを入れる妹に、漫画から顔を上げて呆れた視線を送る
「…いっつも思うんだけど、乙女ゲームって一人でするもんだぞ」
「こんなイケメンが馬鹿みたいにこっぱずかしい事言うの一人で聞いてられないって、いっつも言ってるでしょ」
…じゃー何で予約までして毎回高いゲーム買ってくるの…お兄ちゃん本当に理解出来ないよ
せめて「ゲーム機がお兄ちゃんの部屋にしかないんだから仕方なく…」ぐらい言えないのか…
ベットを背にゲームを始めてしまった妹を横目に、そのゲームのパッケージを手に取る
裏にはキャラクターの説明が…卯美に辰美に巳緒(みお)に美耶子(みやこ)…相変わらず名前がすげぇ…
アニマルって言うから耳でも生えてるのかと思ったけど、生まれた干支が名前の由来らしい
ふーん、とさほど興味も無いのでパッケージを元の場所に置けば、また漫画に目をやる
しかし、のんびりしてたのも束の間
…何とゲームがフルボイス…漫画がシリアスなシーンなのに甘い声が聞こえてきて寒気がしてくる…
漫画を読むことを諦めればする事もないので…他の事にも手がつかず、仕方なく画面に目を向ける
「辰美…」
「兄貴…彼女と何してたんだよ」
おぉ、兄が主人公と仲良くしてるところを弟に見られるとか…修羅場が始まるのかこれ…
「辰美くんと卯美先輩って実は仲良いですよね。黙っていても思いあってて、とっても素敵です」
「お前…」
「はぁ…君には適わないよ」
…始まらなかった。いや多分妹が選択肢の3つ目を選んだからだと思うけど
ちなみに選択肢は
@手伝ってもらってたの
A無言で見守る
B二人の仲を良くする、だ
「…なんなのその選択肢」
「これがこのゲームのいいところなの。ばんばん皆のフラグ立てていくと逆ハーエンドがあるのっ、ただちょっと主人公が天然臭いからやなんだけどね」
…お兄ちゃんはフラグだとか逆ハーとか言い出す妹がやだよ
へーとかふーんとか気の抜けた返事を返しながらとんとんと進めて行く画面を眺める
最終的に4人から告白される主人公
これまた修羅場でもくるかと思いきやド天然な発言をして回避し、「俺達の冒険はまだまだこれからだ!」みたいな落ちを迎えていた
…まぁ多分、一週目にこのエンド見て、気に行った人を二週目で選んで落として下さい、みたいな感じなんだと思う
「これって一週目でこのエンド見て二週目で好きなキャラ選ぶって感じなんだ…こう言うの親切だよね」
…妹も同じことを思っていたようだ
はたして親切なのかは分からないけど「そうだな」とか適当に相槌を打っておいた