ブック2

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あれから数日が過ぎた教室にて

帝が冬樹の足を引っ掛けても黙っていそいそと逃げていく
体育の授業も静か、むしろ逆に何もしないからそれはそれで邪魔者な冬樹

冬樹がとうとう帝の逆鱗に触れて怒られただとか、信憑性のない噂がクラス中に広がっていた


「最近冬樹大人しいよな」


彼もまた気になるようで、隣の席の帝に声を掛けた
帝はその言葉に耳を傾け、視線を冬樹に向けたのだが…


「ひぎゃーっ!?」


目が合った瞬間、冬樹は奇声を発した
その反応に目を伏せ、視線を隣に戻した帝は頬杖をつく


「…あれが大人しい?」


流石のクラスメートも苦笑いだ
始めは皆、冬樹が悪いと思って
またいつもの事だと笑ったり呆れていたのだが…
日が立つにつれてあの反応を不憫に思い始めていたのだ


「さ、騒がしい事は騒がしいんだけど、前と違うくないか?帝に突っかからなくなったって言うか…」


その言葉に帝の隣の席だけでなく前や後ろも頷いている


「何か恐怖体験でもさせたのか?まるで帝が宇ちゅ…


「帝は宇宙人なんだっ!」


…ほら。誰も真に受けてないけど帝は宇宙人だーって、あっちこっちで言いふらしてるぞ」


帝が隣と話をしているのと同じように、冬樹も何があったのかを隣の人に聞かれていた
帝とは対照的にべらべらとは喋っているのだが……理解はされていなかった
その言葉を聞き取りながら帝は小さな溜め息をついていた





―――


今日の体育は卓球だ
これなら帝に怯えなくても済む
少しホッとするが、それでもいつもみたく馬鹿みたいにはしゃがないので、平和に淡々とラリーが続いていく

ポンポンとピンポン球の高い音が響く中、向かいの人とお喋りしていた

最近みんな帝の事ばかり聞いてくる
俺は大真面目で事の重大さを伝えようとしているのに、誰もまともに最後まで聞こうとしない

だけどこのクラスメートは根気良く冬樹の話に耳を傾けていた


「だからな、何で帝が宇宙人なんだ?」


コツン、ポン、コツン
ピンポン球はラケットに打たれ、ネットを飛び越えてワンバウンド
そしてまたラケットに打たれる
そんなラリーは順調に続く


「パソコンで調べたから間違いないんだ!ぐーるるとかうぃきぺでぃ…何とかは偉いんだぞ。調べたい文字打つだけで教えてくれるんだから、帝より偉い」


変わらず卓球のラリーは順調なのに、冬樹から打たれる言葉のボールは変化球も良いところだ
クラスメートは何とかそれを受け止め、優しくボールを返した

コツン、ポン、コツン
軽快な音は絶えず響く


「…うん。それで何を調べたんだ?帝の名前なら何かのコンクール優勝とか出てくるはずだけど」


「同性あふぐあぁっ」


コツン、ポン、ガコンッ!バタン!

向かい側にいたクラスメートは、周りにいた人達も何が起こったか分からず目を瞬かせた
彼が打ったボールは優しかったはずだ
その証拠に仰向けで倒れた冬樹の傍で何回かバウンドして止まっている


…じゃー何故今、冬樹の口にピンポン球が入っているのか

それを知っているのは打った当人だけだった

そして当人はすっと手を上げ、抑揚なく落ち着いて言葉を発した


「先生、冬樹がピンポン球食べちゃったんで保健室連れて行きます」


「お、おう…頼んだ…」


帝の言葉にみんな何故か納得し、連れて行かれる冬樹を見つめる
冬樹の相手役だった人は
冬樹とラリーするの大変だっただろ、と慰められ
冬樹はラケットすら使えないのか、とか
いくらなんでもピンポン球食うなよ…、とか呆れた声が飛び交う

帝の言う言葉の信憑性は高過ぎた
あの帝が言うんだから、それが真実だと先生まで信じていた

冬樹の身の心配は誰もせず、一通り呆れた後に何事も無かったように戻る授業風景
帝の相手役は冬樹の相手役と組み、仲良くラリーを始めていた



誰も帝が冬樹の口を塞ぐ為に、その口目掛けてスマッシュを打った事なんて
その勢いで倒れてしまい頭を打って気を失ってしまったなんて知らなかった
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