ブック2

□複雑な恋愛事情
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side―守



窓から朝日が差し込む
二人部屋の寮に備え付けてある台所からはいい匂いが漂ってくる


「ねぇ、起きて?」


そんな中、凛と綺麗な声に呼び掛けられる


「んー…後五分…」


本当はすぐに起きたかったかのだが、甘えたい気分にもなる
またその声に呼び掛けてもらいたい、と我が儘を漏らしてみる


「朝ご飯冷めちゃうから、早く起きてよ守」


名前を呼ばれ、薄く目を開けば中性的な、美人と呼べるその顔が、柔らかく俺に微笑みかけている


「朝ご飯より明里を食べたい…なんて」


なんて、思わずポロッと本音が
こんな事言ったらきっと呆れられるか怒られるだろうな…
だけど返ってきた明里の言葉は意外
反応も意外過ぎるものだった


「…もう、しょうがないな…ちょっとだけだよ?」


「え、あ、明里?」


目を伏せ、頬を染めて恥じらう明里
その姿はもう誰がみてもくらっとしてしまう程の色気で
その色気に当てられた俺も真っ赤だ
ぽかんと固まる俺に、明里が距離を詰め…


「ん…守…」


柔らかい唇が押し付けられ、やらしく名前が呼ばれた
まるで夢みたいだ
そう、本当に夢のような……






「なぁ、俺腹減ったって。枕とキスしてないで起きてよ」


「……はぁ」


…そりゃ夢だわな
明里が料理して、優しく俺を起こす訳がない
しかも色情的な事は有り得ない
真っ向からたたっ切られる
いくら女より美人で、学園で一番抱きたいと思われてる可憐な明里だけど、性格に難が


「どうした、朝立ちでもしてんの?」


「お前な…って、ちょ!?」


そんな綺麗な顔してそんな言葉を……やらなんやら思ってる間にぺらっと毛布の中をのぞき込まれた


「あー…ホントにしてるや、俺先に飯行っとくから」


ごめんな、と変な気を遣われた上に謝られ、部屋を出て行ってしまった明里

残された俺はもう、消えてなくなってしまいと頭を抱えた




明里に惚れたのは同室で初めて会った時だ
その思わず見とれてしまう見た目に澄んだ声、時折見せる笑顔がホント愛くるしくて、まるでお人形のよう
そんな明里に惚れない奴の方が少ない
中学からエスカレートで高校に入った奴は勿論、同性愛に偏見もなく
高校から学園に入ってきた奴もすぐに明里に惚れてしまう程

俺は中学からこの学園にいたが、ノーマルなはず…だった
だけど明里に名前を呼ばれた瞬間、もう落ちてしまった

同室者としていきなり告白するのもどうかと、しかも明里は高校からこの学園に来た訳だし
普通に仲良くしながら、毎日のように告白される明里を見ながら冷や冷やしていた


そう、初めの1ヶ月ぐらいは
今では絶対大丈夫だな、と
早々告白しなくてホント良かったと思っている
…それでも夢を見てしまうくらい明里が大好きなのだけど



朝飯を食いに行ける元気がなかったので、買い置きしてあったパンをもさもさ食いながら登校

教室には先に出たはずの明里の姿がない
少し気になりながらも鞄から教科書類を出し机に突っ込む
欠伸の一つでも漏らしていれば、少しむっとした表情の明里が
それでも微妙な変化なので、俺の見間違いかもしれない
クラスメートに挨拶を交わす声は相変わらず綺麗だった

だけどやはり当たっていたようだ
少し乱暴に椅子を引いた明里は俺の前の席に、これまたドカっと乱暴に座った


「もう、守を待ってから一緒に食堂行けば良かった」


「どうかしたのか?」


自分が特別扱いされているようで、気分が良い
…まぁそれは一番の"友達"として認識されてるだけなのだけど
それでも信頼されてるのは嬉しい


「ラーメン食ってるのに好きだのなんだの、ラブソングまで歌われて引いた。ご飯美味しくなくなった」


「ら、ラブソングは無いわな…」


…朝からラーメンも無いけど


「ご飯済んだら済んだで呼び出されて、一回だけでいいからセックスさせてって」


「…それで?」


「俺男ですって断った。それでも引き下がらないからセックス何て知りませんって言っといた」


…いつもの事ながら、これで大半の奴が恋人になる事や邪な感情を向けるのを諦めて明里を見守るようになる
同性に興味がない事で他者に取られる心配がなくなり、また純粋な明里を汚せないからだ

明里はそれを意図して言ってる訳じゃない
面倒だから話を切り上げてるだけなのだ

それに


「…この顔がそんなにいいのか、顔だけで人を選ぶなよな。セックスしたってあんあん鳴くとは限らないだろうに」


この顔が、と自分の頬を引っ張り下品な事を言う明里
見た目が綺麗だろうと中身は同い年の男だ

端から見た勝手なイメージを押し付けられているだけ
明里もそれが分かってるのだろう
俺以外の奴の前ではあまり口を開かない
それが余計に落ち着いてるだとか印象を与え、さらに好感度を上げてしまっている


「あー…そんなに抱きたいの?男の俺を抱きたいの?なんで?他人のチンコ見たいの?自分の見てろよもう」


それに明里はげんなりし、…捻くれ腐っていた

そう、明里の性格には難が
下品なのは男だから仕方ないが、今みたくすぐ捻くれるのだ
やさぐれてる時もある
大体2つが入り混じり、…目が死んでいる

俺の机に突っ伏す頭をぽんぽんと撫でる


「落ち着けって、明日からちゃんと一緒に飯食うから」


「うん…ありがとう。もし勃って行けないんなら抜いてでも一緒に行くから」


「え、え?」


い…今何て…?
撫でる手が止まり、まじまじと明里を見つめる


「ここじゃー普通なんでしょ?抜きっこ?だっけ?別に守のなら触れるし」


「い、いったい誰からそんな事…」


「前に話し掛けてきた人が言ってた。さっぱり分かりませんって聞き流したけど」


そいつに礼を言うべきか殴るべきか…と言うか明里の発言にドキドキと鼓動が早まる
やや下半身にも熱が集まる

こんな所でいかん、と邪念を振り払う


「ま、やられたくないなら早く起きてよね」


に、と意地悪く年相応な青年のように微笑む明里
今日もまた俺は無自覚な明里に振り回されるようだ

明日の朝は寝た振りをするか否か、授業中に真剣に考えていた俺なのだった
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