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□歪む景色
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「陽那君、離して」


「んー…」


はぁ…ともう何度か分からない溜め息をついた

手は出してこないけど、兎に角一緒に居たがる陽那君
やりたそうにしているが、これ以上俺に嫌われたくないのか…まぁ何考えてるか分からないけど、我慢しているようだ

両親の目を盗んでは抱き付いてきたりすり寄ってきたり、あまつさえ一緒に寝ようとさえしてくる

今だって無理矢理ベットに入ってきて、抱き締められている
最初は抵抗したが、二週間も過ぎればもう疲れてしまった


「…当たってるんだけど」


「んー…お兄さん…シたい」


「もう部屋に帰ってよ」


まるで発情期の犬にでも好かれた気分だ
これじゃあいったい誰に警戒すればいいんだか

相変わらず優しい義父は何もしてこない
それどころか気をよく遣ってくれ、些細な事でも気軽に話し掛けてくれる
引っ越すからと辞めてしまっていたバイトだったが、また新しいのを始めようと情報誌を捲っていれば「透君は少し自由にすればいいよ。欲しい物があるなら遠慮なく言ってほしい」と、頼られて欲しそうな場面も

本当の父のようになろうとしてくれている
そんな義父…父さんを警戒しろと言うのも変な話だ

また溜め息を付けば今夜も気にしないまま瞼を閉じようとした

だが、ノックの音で阻止されてしまった


「透君、少しいいかな」


「は、はい、今開けます」


返事をしてしまったものの、ここには陽那君がいる
流石に兄弟になったからとは言え一緒に寝てるなんて知られたら何と思われるか
慌てて立ち上がれば開けられる前に自分から少しだけ開いた


「遅くにごめんよ。あまり時間がとれなくて…」


「大丈夫ですよ。どうかしましたか?」


「実は陽那の事で相談に乗って欲しいんだ…年が近い方が分かるかと思って」


「俺で良ければ…」


相談に乗りますけど、と言う言葉が陽那君の手に寄って塞がれた


「…こんな時間にお兄さんに何する気?」


「何で陽那がここにいるのかな?」


不思議そうに首を傾げる父さんに血の気が引いていく
口を覆う手を掴んで話させれば誤魔化す為に口を開く


「寝ぼけて来たんですよ、な?陽那君」


睨み付けたい気持ちでいっぱいだったが、後ろにいる陽那君を見上げれば、頷いてくれ、と目で合図を送る
それに気付いてくれたのか陽那君は微笑んだのだが…


「庇ってくれてありがとー。でも俺がここで寝てるの…父さんずっと前から知ってるから」


「え…何で」


「父さんは夜中に毎日ここに来るから、だから毎回俺追い返されてるの」


どういう事だ?
そりゃ、陽那君と無理矢理だけど一緒に寝るのに翌朝いなくなってるから不思議だったけど
俺としてはいない方が嬉しいから特に気に止めてなかった
…だけどそれが父さんが追い返してたからだと?


「陽那、変な言い掛かりは止めてくれ。透君が勘違いするだろ?」


困ったように苦笑を浮かべる父さん
それを敵意むき出しで睨み付ける陽那君


「勘違いって何?我慢出来なくなってどうどうと誘いに来たんでしょ?」


「はぁ…仕方ない。相談はまた今度にするよ。陽那も自分の部屋に帰りなさい」


「父さんが部屋に帰ったらね」


あまりに呆気に取られて、この親子の会話に口を挟めなかった
父さんは苦笑を浮かべたまま、ごめんよと俺に謝って階段を降りて行った


二人っきりに戻った部屋で、今度は陽那君が扉に手を掛けた


「…帰らなかったらまた来ると思うから部屋に戻るけど、何かあったら呼んでね?部屋から出ちゃダメだよ?」


「ちょっと待って、説明を…」


俺の声は扉の開閉音にかき消され、陽那君は部屋に帰っていった

……陽那君は何故説明をしない
何でこんな時だけ、日頃あんなにべったりなのに、すぐ帰るんだ

追い掛けて話を聞きたかったが、はたして俺は陽那君の言う言葉を信じられるのか
そう自分に問えば、頷けなかった
だから追い掛けれなかった

一人になりベットに横になってはみるが、さっきの出来事で眠気が吹き飛んでしまった

さっきの父さんの様子を思い出してみても可笑しなところはない
陽那君が居た事を不思議がり、陽那君の言葉に困惑していた
普通な、当たり前な反応
むしろ陽那君の方が変だ
父さんに敵意をむき出し、誘うだのなんだの……きっと俺の事を心配してくれたんだとは思うが
陽那君はいつも言葉が足りない
愛情表現ばかりで、肝心な所はまるっきり抜けている
薬の事だって、見せてもくれない
見た所で俺が取り上げるからだとは思うけど
それを見て、父さんが作ったと分かったにしても、それを俺に使う理由にはならない
性癖が遺伝だとか、本当なのか?
陽那君が嘘付いてる様子じゃなかったけど、父さんは母さんと仲良くしているし…

もう何を信じればいいんだか

膨大な溜め息を付けば、とりあえずこのままだといけないと思い、ベットから立ち上がれば部屋を出た
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