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何か最近…


「きゃーっ、あの人カッコイイ!」


って言う声とかよく聞こえてきて


「あんな人大学にいたっけ!?」


…多分いなかったと思うよ


「あんな人近所に住んでたっけ!?」


多分いなかったと…


「あのー、良かったらこれからどこかに――」


…俺の行く先々でよくこんな光景を目にすると言うか、背後から聞こえると言うか…単なる偶然かな…

サイレントモードにしていた携帯が光り、たった今届いたメール

それを開けば"今日の服装可愛らしいね。あ、今度一緒に買い物とか――"

…全部読まないまま携帯をポケットに突っ込んだ


家に帰ればソファーでうなだれて携帯片手に頭を抱える
…まるであの時のキララさんみたいだ

あの時話し掛けなければ良かったのかな…
…まさかあの後追いかけられていたなんて、逃げ帰るのに必死で知らなかった


以前より増えた着信とメール
しかもメールの内容が変わった

さっきみたいに服装の話しとか
買い物に行ったらそれが好きなの?とか
夜更かししちゃ駄目だよとか

……スから始まる5文字のある言葉が頭に浮かぶけど、こんな俺が、あんな輝いてる人にされる訳がない、絶対ない
それこそ自意識過剰だ
何かの興味本位とか、からかってるとか、多分そんな感じのノリなんだと思う

何回か、と言うか大体名前とか呼び掛けられるんだけど、知り合いだと思われたら周りから凄い目で見られるので走って逃げている

関わらない事がキララさんの為だと、2〜3日すれば飽きると思っていたのに…それが1週間も過ぎればかなり焦る

あー…とか、うー…とか自分でも訳の分からない言葉を口に出しながら頭を抱えていれば携帯のディスプレイが光り、ちょうど着信が掛かってきた

躊躇ったものの、そろそろ向き合わなければいけないと思っていたので、一呼吸すればボタンを押して携帯を耳に当てた


「…もしもし」


「出てくれて嬉しいよ。響の声聞きたかった」


…怒られるか、貶されるかと思っていたのに、電話越しに聞こえた声は優しかった

キララさんからあんなに掛かってきていた着信やメールを俺は無視していたのに…


「怒ってないんですか?」


「どうして?俺は響を見れるだけで幸せなんだから」


…キララさんはホストだから、キララさんはホストだから
そう自分に言い聞かせるが、もう何て返していいか分からず黙り込んでしまう

黙ったままでいればくすりと笑い声が聞こえた


「響、好きだよ。見てるだけでも幸せだけど、やっぱり声聞くと会いたくなるよ」


「…っ」


そう囁く声はとても甘く、嘘だとか冗談だとか自分に言い聞かせても聞いてられなくなり、電話を切ってしまった

…顔が熱い
それに、冷や汗も流れる

最近は嘘だとか冗談と自分に言い聞かせようとしてもあまり効果を発してくれない
女装している時なら仕事だからと割り切れたが、今は俺が男だってキララさんは知っている
それなのに会えば笑顔を向けられ、逃げてもついて来て、あげくに電話で甘い言葉を囁かれて…

嫌わる事は沢山あっても、好かれた事なんかない…からかわれてるだけかもしれないけど
まして甘い言葉なんて言われた事がない

それが男だとか関係なく、俺にはどうしていいか、わかる訳がなかった



――


結局今日もどうしていいか分からず、お風呂から上がればなんとなくベランダへと出る

火照った体に夜風が気持ちよく、見上げれば星が綺麗だった
そしてそのまま地上を見れば一際輝く星が、…じゃなくて人間がいた

な…何でいるんだ…
驚いて見ていれば目が合い手を振られた

慌ててベランダを出れば部屋着姿のままで家を出てマンションの階段を駆け降りる
そしてさっき目が合った人物の元へと駆け寄った


「…キララさん」


「お風呂上がり?…何かエロいね」


「は…?」


「あ、ごめん。こう言う事言わないようにしないと…響を前にするとつい、考える前に本音が出ちゃうや」


…何も聞いてない、何も聞いてない、何も聞いてない

そう言い聞かせて一呼吸する


「…ずっと居たんですか?」


「うん、響がそこにいると思うと何だか帰れなくて」


「お仕事は…」


「最近サボり気味かな、ここにいる方が楽しいし」


…そう言えば最近の「おやすみ」とか「夜更かししちゃダメだよ」って言うメールが物凄くタイミングが良かった気が…ちょうど部屋の電気を消した後辺りだったような……何か急に背中が寒い、湯冷めしたのかな


…でも、きっとキララさんは自分がいったい何をしてるか自覚がないんだと思う
何か雰囲気がキラキラしてるからか、邪な感情が見当たらない、…こんな理由で納得してる俺もどうかと思うけど
こう、スト…ほにゃららする人のイメージとかけ離れている


色々と返事に困っていればキララさんが口を開く


「どうしようもないくらい響が好きなんだ……あー、ホストなのに、こんな時にちっとも役に立たないなぁ」


その姿はいつもの余裕ある姿ではなく、少し焦ってるような…年相応と言うか幼くも見えた


「響を口説き落とせればいいのに、また困らせてるね俺は」


「…戸惑ってるだけで、そんなに困ってる訳じゃ…」


…毎日頭抱えるくらい悩んでますけど、自身の頭を掻きながら困ったように笑うキララさんにそんな事言えなかった
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