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side―新川朔


別に身の回りの事さえしてくれれば誰でも良かった
尽くされるのは嫌いじゃない、むしろ気分がいい

甘やかされて育ち、身の回りの事が出来ない自覚はあったが、傍にいた人が、今は付き合った人がしてくれたので不自由はしなかった
この容姿のお陰で恋人が絶える事もなかった

だから何かしようと言う気力は全て内では無く外へ
それが勉強だったりスポーツだったり人付き合いだったり
気が付けば皆に慕われ、随分過ごしやすい地位を手に入れる事が出来た


――――


依緒の告白を受けたのも、たまたま先日恋人と別れたから

外見は普通ながらも、そんなに喋ってこないから相手をするのも楽だった
私が頼めば何でも健気にこなし、まるで犬
その癖今までの恋人のようにベタベタしてこない、見返りを求めてこない
だけどその瞳は嬉しそうに俺を映し、言うなれば忠犬だった


依緒は恋人として長く持った方
大抵の人達は1ヶ月と保たない
片付けだって、元々あった場所に戻すのも簡単なようにみえて面倒だ
料理だってたまになら喜んで作ってくれるだろうが、毎日となるとまた面倒で

だから大抵見返りを求め、体の繋がりを求めてきた
気持ちが高ぶらない相手に行為を及ぶのは好かなかったが、性欲の処理には丁度良かった


…だから依緒は私にとっての毒でしかなかった

何も求めない依緒のおかげで益々外に力を向ける事が出来た
だけど忠犬でいるのにも疲れたんだろう

ある日からぱたりと来なくなった
直接私に怒りを向けて別れるのが大体であったのに、依緒はそれもなかった
ただ依緒の瞳はもう恋をしている瞳ではなかった

でも特に気にする事もなく、また告白してきた人と付き合い、同じように生活を送っていった


…だけど、依緒と一緒にいた時間が長かったのか、見返りを求められるのが酷く不快になってしまった
性欲の処理なんて、まだ一人でした方がマシ
そうなってくると身の回りの事"だけ"してくれる人なんてそうそうおらず、恋人が切れるサイクルが早まっていった

そして恋人を作る事さえ面倒になってしまった


上手く生活出来なくなり、楽な生活を送れていた、依緒が恋しくなってくる
依緒がいるなら見返りも嫌ではないかもしれない、傍に居られても不快ではないかもしれない
自分から寄りを戻してほしいと言いたくはなかったが、仕方がない

依緒の連絡先だけは消せずにアドレス帳に残していたので、発信ボタンを押せば携帯を耳に当てたが…聞こえてきたのはアナウンスの声だけ

恋人に干渉したいとも思ってなかったので、依緒の家なんか知らない
もう卒業したのに面倒だったが学校に足を運び、教師に上手い事言えば住所を教えてもらった
進学先も聞いてはみたが、何やら急に変えたらしく、受かった事に安心して把握してなかったらしい

住所が聞けたのだから、と気にせず学校を後にし、依緒の家へと向かったのだが…誰も住んではいなかった
通りかかった人に最近引っ越したのだと聞かされ、やむなくその場を後にした


依緒がいない
依緒がいたあの日常をもう送れない

冷静な頭で考えていれば親の転勤だとかすぐに思い付いただろう
だけど上手く生活が回らず、簡単に依緒が戻ってくると思っていたのにそれも上手く事が運ばず、少しずつ自分の中の歯車が壊れ、修復出来なくなっていった

新しい大学生活が始まれば、外面を良くしなければいけなかったので余計に情緒が安定しなくなっていった

部屋は荒れる一方
コンビニで買ってきた弁当も味気なくて美味しくない


考えるのは依緒の事だけ

こうなったのも依緒のせいだと一時は恨んだが、次期に依緒さえいればあの日常が送れ、幸せになれると思えきて
だけど依緒は何も言わずに消えてしまい、ただ尽くすのに疲れたんだろうと思っていたのに、私から逃げたと思うようになり
――逃げ出したなら捕まえて、離れられなくさせればいいと思うようになっていった

告白してきたのは依緒
尽くしてくれたのも依緒

ならば私が繋ぎ止めたって嫌がるまい

むしろそうされたいのを望んでいるから、私を試す為に逃げ出したように思えてきてしまい
だから別れ話もなかったのかと納得出来る
そうなると憎しみは消えて依緒が可愛らしく思えてくる
ただ構ってほしかったんじゃないか、と

探し始めてはみたが急に引っ越したらしく手かがりがなく、手間が掛かればかかる程、情緒は乱れ頭には依緒の事しか浮かばなかった
ただ、それだけ依緒が私を呼んでいる気がして、早く見つけてほしがっている気がして
"諦める"なんて考えは微塵も浮かんでこなかった

外面の良さからやっと手に入れた依緒の情報に、頬が緩むのが隠せない


――ちゃんと捕まえてあげますから、二度と私の傍を離れないで下さいね?依緒
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