main

□2
1ページ/1ページ



「…てかさ、何してんの」


「おめかしってやつ?」


「百本譲ってこんな格好してんだからやめろよな…」


「今まで何回も女の格好してきただろ?何を今更。それから泉可愛い、今すぐヤりたい」


「…ケーキ屋行くんだろ?」


「じゃー帰って来てから」


「…絶対しないからな」



あの日以降、宏武とは恋人同士になった
だけど特に何も変わっていない
前みたいに放課後一緒に遊ぶようになり、一緒にゲームしたり漫画読んだり
楽しい毎日を送っている

…ただ、隙あらば宏武が襲ってくるようになったのだ
もう家に家族が居ろうがお構いなしで
学校でも襲われかけて、流石に殴ったけど


そんな宏武に今髪の毛を弄られている
今の俺の格好はあの日にプレゼントされたワンピース姿
着てほしいとあんまりにも頼んでくるから、俺が折れた
…だって堂々と手を繋いでデートしたいって言うから、そんなの何回も断れなかったのだ


前みたいに顔隠す鬘被りたかったのに駄目と言われ、髪の毛弄ってきて変態発言する宏武を殴りたい
眼鏡を掛ければ、キスしようとしてくる宏武から逃げるように先に外へと出た





「なぁ、宏武ってケーキ好きだったのか?」


「まぁ好きかな、でもケーキよりケーキ食ってる泉が好きだったから」


「あ、あぁそう…」


あの時の約束通り、俺達はまたあのケーキ屋へとやって来た
ケーキを頬張りながら何となく尋ねてみたら…何て事言うんだ
恋人同士になってからと言うもの、こんな感じで宏武が甘い事言ってくる
それが慣れないと言うか凄く恥ずかしくて調子が狂う…

動揺してるのがバレないように別の事を考えたりケーキを食べるのに集中したが…穴が開くほど見られている
それに耐えかねて視線を合わせた


「どうかしたか?」


「好きな奴が傍にいるって幸せだなと思って」


「がは…げほ…っ」


飲んでいたコーヒーを咽せて軽く零してしまい、備え付けのペーパーで慌てて口を拭った

宏武の表情は本当に幸せそうに笑っていて…もう赤面せざるおえなかった





ケーキを食べ終えれば店を出た
もう約束は果たしたし、早く家に帰って着替えたい
…だけどまだ帰りたくなさそうな宏武に連れられ、近くの公園へと来た
あまり人はおらず、ベンチに腰掛ける
勿論、ケーキ屋からここまで、今も手を繋いだままだ


「宏武、楽しかったか?」


「凄く楽しかったぜ、ずっとこうやっていられるしな」


そう言って手を強く握る宏武
手から伝わる温もりは、安心感を与えてくれる


「泉は楽しかったか?」


「…おう、こんな格好じゃないと一緒にケーキ食えないもんな」


「そっか、良かった」


恥ずかしかったけど、楽しかったのは確かだ
笑みを向けてくる宏武に、手を握り返して笑みを向けた


「…なぁ泉、今から家に帰って」


「…いい雰囲気を壊すなよ」


俺は力の限り握っている手を握り締めた
痛くて顔を歪める宏武は自業自得だ

だけど俺が素っ気なさすぎたのか、むすっと拗ねてしまった
手の力を抜いても変わらぬ態度で、小さく溜め息もついた宏武

まぁ、俺朝からずっとこんな態度から余計に拗ねたのかもしれない
悪いとは思ってるんだけど、こんな格好だし余計にと言うか、仕方ないと言うか


「…宏武」


「ん?」


拗ねたままこっちを向いた宏武
これで機嫌が直って、俺の気持ちも伝わればいいんだけど
緊張してちょっと躊躇ったが、軽く一瞬だけ唇を重ねた


「…泉って本当にズルいよな、俺惑わされっぱなしなんだけど」


「俺も散々振り回されたんだから、お互い様だろ」


惑わしたつもりはないけど、どうやら伝わったみたいで宏武の頬は赤らんで微笑んでくれた
宏武からも顔を近付けて来たので大人しく目を閉じる
唇を重ねられながら、たまにはこんなデートもいいかもしれない…なんて思えた


「泉可愛い」


「可愛い訳ないだろ、馬鹿」


…この顔が可愛く見えるんなら眼鏡掛けろ


俺は立ち上がって、宏武の手を引いて一緒に立ち上がらせる

恥ずかしいけど、俺だって宏武が好きだから
宏武の思いには応えないと
そう思って、少し勇気を出して口を開く


「…着替えたら一回、一回だけな」


「……何それ、反則なんだけど」


「嫌ならしな…うわっ」


真っ赤になった宏武が繋いでいる手を強く握り直し、物凄いスピードで俺を家まで引っ張って連れ帰った




…それから着替えないまま襲われ、一回で済むわけがなく……今度は泉が拗ねたのだった



end


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ