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□俺の主様は
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「お、お許し下さいフラス様っ」


「黙れ」


小さなネズミが流暢に人の言葉を話ながら目の前の人物に必死に頭を下げ、床に這いつくばりながら許しをこうている

そのネズミを感情のない目で見下ろすのは、ネズミを召喚した主


「ふ、フラス様…せめてもう一度チャンスを…」


「ルーン、次は何を失いたいんだ?残っている片目か?」


「…っ」


「ぎゃーーっ!!」


その主を説得しようと弱々しく声を上げた妖精
ルーンと呼ばれたその妖精もこの主が召喚したもの
眼帯で隠されたその片目は色素を失い、見えてはいない
主の言葉に怯えてしまった妖精は黙り込んでしまう
邪魔がなくなった主は指を鳴らし、ネズミを焼き払ってしまった






―――――――


俺の名前はルーン
フラス様に召喚された妖精と言う種族だ
姿は人間と同じ、違うのは背中に翼がある事
後食事をしないくらいかな

妖精の役目は主に自分を召喚した魔術師様の補佐
魔術の事から主様の身の回りの手伝いまで、言われれば何でもこなすのが役目

その妖精を召喚出来るのは魔術師様と言われている魔力を持った人間

召喚方法は召喚に必要な物を集めて魔術師様が呪文を唱える、と言うもの

召喚するものは妖精に限らず、獣族だったり虫族だったり、はたまた触手だったり色々
魔術師様の用途によって召喚されるのだ

それらの召喚方法は全て本に記されている
その本には大体の容姿とそのスキル、召喚するのに必要な物や魔術のレベル、人間の言葉を話せるか等々

俺の容姿は平凡、出来る事と言ったら少々の魔法ぐらいで
人間の言葉は分かるので、猫の手が借りたい時に役に立つ程度
だから魔術のレベルが低くても召喚出来るし、召喚に揃える物も少ないと言う訳

妖精であれ何であれ、召喚されたものは用事が済めば自然と消滅していき、次また召喚されるまで本の中で待機している
…しかし、魔術のレベルが高ければ俺らの存在を消してしまい、本からも消滅させる事が出来るのだ



そう、俺を召喚した主様、フラス様はとても魔術のレベルが高い人だったのだ

失敗を酷く嫌う人で、失敗すればその罰はとても重い
俺も初めて召喚された時、失敗してしまい首輪が填められた
その首輪には魔力が込められていて…本の中に帰れなくなってしまったのだ

でも俺の罰はまだ軽かった方で…一番酷ければ焼き払われて存在が消されてしまうのだ

俺は補佐で、フラス様が俺の仲間を召喚する材料調達のところから携わってる訳で…
仲間と言っても俺らは無機質な存在
召喚されるまでは生命を持たないのだ
だから他との交友はない
だけど同じように召喚されて来ている
種族も違えど存在が抹殺されるのは恐怖でしかないのは分かる

何とか止めてほしくて止めに入ったのだが…最初はその仲間を抹殺しない代わりにと俺の魔力が奪われた

その仲間は酷い苦痛を与えられてはいたが、本には帰れた


だが一度で終わるはずもなく……次止めに入れば翼を奪われ、その次は片目の視力を奪われてしまった

奪われる時の痛みは気を失う程で…意識を取り戻しても一週間は激しい痛みが続く
また無くなってしまった喪失感も凄く、絶望的である

それが恐怖として植え付けられ、…もう俺には抹殺されていく仲間達をただ見ているだけしか出来なかった


今の俺は魔力も使えず空も飛べない
元から身の回りの世話が上手くなかった上に視界も悪くなり悪化する一方
片目は色素を失っているので、そのままだと不気味
眼帯を付け隠してはいるが、容姿も醜くなる一方で
妖精としての意味がほぼなくなってしまった上に不格好
なのにフラス様は俺を繋ぎ止めたまま傍にいさせる

そして俺が他のものと関わる事を酷く嫌う
話し掛けようものなら首を締め上げられる
また、話し掛けた仲間も苦痛を味わわされる
だから俺はいつもは無口なままでいる

だけど、さっき焼き払われてしまったネズミはフラス様の目を盗んで何度か話たことがあり…元気のなかった俺を励ましてくれていたのだ
ネズミなのに人語が離せ、魔力もあったので任された任務は重い物ばかり…だけど何度もこなしてきたのだ
だけど、やっぱり失敗してしまう事もあり…任務が重い分失態も大きく、存在が抹殺されてしまったのだ

片目を失って以来、俺は黙って抹殺される仲間を見てきた
だけど今日はたまらず邪魔をしてしまった
片目くらい差し出せば良かったが、根付いた恐怖が強く一瞬躊躇ってしまい…ネズミの命は助からなかった

そして、きっとフラス様は怒っている
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