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□そんな馬鹿な
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「ホストクラブに着いてきてよ」


「は…?」


「友達にホストにはまってるとか思われたくないじゃない?」


そんな姉ちゃんの言葉に、本当にハテナしか浮かばない

何でも、姉ちゃんは付き合わされて一度連れて行かれた時に随分甘やかされ祝福の一時を送ったそうだ
まぁ、姉ちゃんは辛うじて平凡顔だから、中の上くらいだけど
イケメンの男に絆される経験はなかったようだ…それでも俺と違って彼氏がいた事あるだけ羨ましい
残念ながら俺は不細工と言う部類だ
目なんか小さいし少しつり上がっていて目つきが悪くみられる…全くもってそんなつもはないのに


「お、男ってホストクラブ行けたっけ?」


「アンタ本当に馬鹿ね、女装するとか考えつかないの?」


「は…?」


本日2回目の驚愕だ
俺が…女装?


「…仮に行ったとしても、姉ちゃん笑い者になるけど」


「私の引き立て役になっていいじゃない?嫌なら弁償して」


「う…分かったよ、行くから許して」


こんな事を承諾してしまったのは、姉ちゃんの大事な鏡を壊してしまったからだ
物凄く希少価値のある物で姉貴は発売当日朝から並んで買ったらしい
もう今では売っておらず、ネットオークションで探してみたものの、到底俺のお小遣いで買える値段ではなかった
たかが鏡なのに…そんな鏡を床に置いておく方も悪いのに…

だけど小さい頃から姉ちゃんがキレると手に負えないのを学んできているので、反抗せず土下座した
散々罵倒された後、冒頭の提案と言う名の脅しを掲示されたのだ


…そして姉ちゃんに適当な服を着せられ、肩ぐらいまである鬘を被らされたのだが…


「ぷっ、あっはは!アンタ似合わないにも程が…ははっ」


「…姉ちゃんの為に言うけど、これ連れてくくらいなら一人で行った方がいいよ」


これ、と言いながら女装姿な俺が映る鏡を指差す
一応上品に見えるように薄いピンクのブラウスにロングスカートなのだが…それより顔が酷い
鬘を被ったくらいで顔が変わる訳じゃない、つまり髪の毛が長い俺がスカートを履いている
…もう滑稽でしかない


「も、もう逆に連れて行きたいっ!ははっ、アンタが絆される所がみたいっ」


…店側は迷惑だろうな

何て呑気に考えていれば、めかし込んだ姉ちゃんに引っ張られ電車で2駅程先の、そのホストクラブまで連れてこられた
…店の前につくまで姉ちゃんは笑い続けていた



「いらっしゃいませ、お嬢様方」


「うわ…」


「ちょ、ちゃんとしなさい」


…もう未知の世界過ぎて間抜けな声を上げながら姉ちゃんの影に隠れた

扉を開けば電飾もきらきらしてるけど、スーツをビシッと着こなしたイケメンだらけで益々眩しかった


姉ちゃんが席の案内をされているのでこそこそとそれに続き、席へとついた


「また来てくれて嬉しいです。そちらの方は?」


「覚えててくれたんですか!感激ですー。あ、これは妹の響(ひびき)」


…本名言わないでよ、何か適当で良いから女っぽい名前つけてよ姉ちゃん

何て心の中で愚痴りながらぺこりと頭を下げる
適当に相槌を打つが、俺がただの付き添いだって分かったようで、ホストの人は姉ちゃんの方に構っていた

する事もないのでぼーっとしながらオレンジジュースを啜る
ちらっと確認した料金表は、俺が思っていたよりも低く、この店は良心的なようだ
…だから一人で行きたくない半分、面白半分で姉ちゃんの奢りで俺を連れて来れたと言う訳か


くるくると意味もなくストローでジュースを掻き回していれば、隣にこれまた一際イケメンな人が腰掛けた


「楽しんでる?」


…いいえ、すぐ帰りたいです

でもそんな事言えないので曖昧に愛想笑いを浮かべる


「あ、俺はキララ。好きに呼んでね?」


「…お似合いな名前ですね」


俺は客なはずなのに、何だかここにいることが場違い過ぎて焦り、相手を褒めてしまった…これが褒めた内に入るのかは分からないけど
キララとか何かそんなキャラクターいたような気もするけど…一際はきらきらしてるから似合ってるのは確かだ

男なのに髪の毛を伸ばしているものの、後ろで括り上げていてそれが色気を増していると言うか清潔感があると言うか……俺とは別な生き物だ


「君の名前は?」


「響です」


「可愛い名前だね」


「はぁ…どうも」


にっこりと爽やかな笑顔を向けてくれる
それにぺこりと頭を下げる


「何か元気ないね、こういうとこに来るの初めて?」


その質問にこくりと頷く
…何度もあったら大問題だ

するとキララさんは俺との距離を少し縮めた


「リラックスしてくれていいよ?悩みがあるなら聞くし」


「あの…お…私付き添いで来ただけなので、お構いなく」


「まぁまぁ、そう言わずに」


距離が縮められ余計に緊張感が高まる
微笑まれながらじっと瞳を見られ、男じゃなければ変な勘違いをして惚れてしまいそうだ

…男だってバレたから見られてる、とかじゃなければいいけど
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