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それからと言うもの、やっぱりあれは夢だったんじゃないかって程穏やかな日々が過ぎている


……と思い込みたかったのだが、四六時中注がれる熱い視線
貞操の危機をも感じるような背筋が寒くなる視線は、やっぱりアイツから注がれていて


いやでも別に彼も彼で普通に過ごしているから気のせいと思い込めば何とかならなくもない


だが、面倒な事は体育の授業の時に起きた


「だ、大丈夫か!?」


きゃーきゃーと心配するような女の悲鳴も聞こえ、そこに目をやればアイツが倒れていたのだ

聞こえる声からして顔面にボールがクリーンヒットしてぶっ倒れたらしい

痛そうだなぁ…とか周りはボヤいていたが、俺はそれより今日は見つめられずに済むんじゃないか、何て呑気に考えていた


「佐藤、七瀬を保健室に連れて行ってやってくれ」


先生の言葉に嫌だと反論したかったが、自分は保健委員だから仕方ない

俺が、私がと皆先生に言っていたが、頷かず授業に集中するように促していた


「他の奴らが騒ぐから早く連れて行ってやってくれ」


あー…連れて行くのが大勢になったりして授業がむちゃくちゃになるからか


何となくだが先生の意図を理解すればアイツに肩を貸して起こし、何かもごもご喋っているのをスルーして引きずりながら保健室へと向かった





保健室に付けば"留守中。少ししたら戻ります"と札が掛けられていた

何となく、コイツと2人っきりになるのは避けたかったが……嫌々言ってられない

拭いきれない不安があるものの、部屋に鍵は掛かってなかったので開けば奴をベットに寝かせた

棚から氷嚢を拝借すれば備え付けの冷蔵庫から氷を取り、水と一緒に氷嚢に入れた


ベットに戻れば氷嚢を顔に当ててやり…一応椅子に腰掛けて様子を伺った


「大丈夫か?」


「……」


返事がない

これってちょっと不味い状況なんじゃ…

少し焦り保険医を呼びに行こうとすれば、奴が俺の体操服を掴んでいて引っ張っても離さないのだ

仕方ないので中にシャツも着てたので体操服を脱ぎ、保険医を呼びに行った





「…大丈夫、ちょっと気を失ってるだけだから。佐藤君だっけ?着替えたらで良いから七瀬君を見ててくれない?先生には私から伝えておくから」


「わかりました」


保険医は用事があるようで今は手が離せないみたい

まぁコイツと2人っきりってのは嫌だけど、授業がサボれるならいいか、と頷いた


制服に着替えて戻れば保険医は早々と部屋を去った


椅子に座りながらボーっと赤くはなってるが綺麗な顔を眺める

俺は心の中でさえコイツの名前を口に出してない
もうあの出来事が衝撃的過ぎて、関わり合いたくもないからだ


起きたらあの日の出来事が嘘、と言うか「僕には身に覚えがないよ」何て言ってくれないかな


「ゆーとのにおい…はぁ…」


…言ってくれないかな、ホントに

俺の体操服を幸せそうに嗅がないでくれないかな

体操服を引っ張ってみるが「いーやっ」って拒否られた、コイツ起きてるんじゃね?


「大丈夫か?」


「…」


「七瀬」


「んー…」


…まぁ、一応心配だし起きてるなら大丈夫か確かめたい

溜め息をつけば名前を呼んでみた


「……勝、起きろ」


「はーいっ!」


………何か、あまりにも想像通りと言うか、慣れてないから衝撃的だ


「いってて…何で優斗がここにいるの?ここどこー?」


顔を抑えながら、後頭部も打ったみたいで忙しなく痛がりながら尋ねてくるから、とりあえず氷嚢を渡しておいた


「体育の授業中、顔面にボールぶつけて倒れたの。んでここは保健室、俺は保健委員だから…」


「心配してついててくれたんだね!」


「…大人しく寝とけ」


多分会話にならないと思うから話を終わらした

周りにお花でも見えそうな程微笑んでこっちを向いてるコイツは……また体育服の匂いを嗅いでる


「体育服返せ」


「体育服が僕の手の中にあるって事はー…優斗ここで脱いだんだよね!?あーもう何で起きてなかったんだろっ」


「…おい」


頼むから会話してくれっ

体育服が嗅がれてるっていい気分じゃない…むしろこう、恥ずかしいくらいだ


「…頼むから嗅ぐな」


「うー…いい匂いで安心するのにー…」


せめて、いや「せめて」も何も無いんだけど
普通に嗅がれてるなら子供が抱いてるタオルケットぐらいに思えるから我慢出来るんだけど…

……はぁはぁ聞こえてくるのは幻聴なのだろうか


「ばっ、食べるな!」


「んぇ?もー…恥ずかしがり屋さんなんだから」


口を開けたと思えば信じ難いがコイツは体育服を食べようとしたのだ

慌てて体育服を奪い取って睨み付けてやったらコイツの顔が真っ赤になった…もうやだ帰りたい
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