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□君の傍に
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「あーもう有り得へんやろ、めっちゃつーかーれーたー!」


「はいはい、お疲れ様」


びしょ濡れな格好なまま俺にのしかかってくる

スーツが湿ってしまったが、この子のやるせない気持ちも分かるので好きにさせている


「鈴(すず)りんの愛で俺を癒やしてー」


「あっちに簡易シャワーあるから、早く行っておいで?」


「…はーい」


唇を尖らせ拗ねながらシャワーへと向かったのは月弥(つきや)

最近はテレビの仕事も増え、そこそこ売れているピン芸人だ


俺はそのマネージャー
月弥の芸が好きで、下積み時代から応援してきたのだ
その芸が周囲に認められて忙しくなり、マネージャーが必要となった時に俺がやりたいと申し出た

月弥は俺が応援していたのを覚えててくれ、マネージャーになった時は照れくさそうだったな

昔は他の芸人との掛け持ちマネージャーだった
月弥に仕事を取ってくれば喜び、終われば反省会をしたり

今は取ってこなくても仕事が舞い込んでくるんだけどね
有り難いことだ
だから今俺は月弥の専属マネージャー

一緒にいる時間も長く、仕事と言う間柄に関係なく仲良くやっている
嬉しい事に月弥も俺に懐いてくれていた


「鈴りん着替えー」


「はいはーい。あ、こら出てくるな!」


バスタオルだけで廊下を歩いてくる月弥に慌てて着替えを持って走る

全く…懐いて甘えてくれるのは嬉しいから文句は言えないけど

シャワー室に押し込みながら着替えを渡す

芸人なのにこの引き締まった体
顔も結構男前で、芸人より俳優の方が向いてるんじゃないかって思うこともしばしば

現にドラマのオファーも来てるのだ
恥ずかしがって中々出ないけど、たまに出る姿は本当に様になっている


「どしたの鈴りん、俺の体に見とれとるん?」


「まーね」


「え」


「ほら、早く着替えて」


何故か頬を赤らめる月弥を余所に急かす

早くしないと打ち上げに間に合わない

着替え終わった月弥を車に乗せれば打ち上げ場所へと向かった


「俺打ち上げ好きちゃうねんけど…」


「これも仕事だから、せいぜい好きな物食べておいで」


「嫌やなー、鈴りんと二人で飲みたいー」


「そんなのいつでも出来るだろ?迎えがいるなら電話してくれていいから、行ってらっしゃい」


「はーい、今度の休みは二人で飲もな?」


それに頷けば渋々といった感じで店の中へと入っていった


それを見届ければ自宅へと車を進ませた








自宅に着き、スーツを脱いで寛いでいた

携帯をちらちら見るが何の連絡もない
もう夜中の2時になり、月弥からの呼び出しもないみたい

トイレでも済ませて寝るかな


そう思って立ち上がればピンポーンとインターフォンが鳴った

こんな夜中に誰だ?


「はーい、…月弥?」


「鈴りんただいまー」


「おかえりー…ってここ月弥の家じゃないぞ」


思わずツッコんでしまった

それにしても酒臭い


「鈴りん、おかえりのちゅーは?」


「ありません、もう遅いし泊まっていくか?」


「泊まるーっ」


ハイテンションな酔っ払いの絡みをスルーしながら、肩を貸してベットへと連れて行く


「鈴りん一緒に寝るやろー?」


「あー床で寝るからいいよ。おやすみ」


「嫌や、一緒に寝んの!」


「ちょ、うわっ」


この酔っ払いは…
ベットに引き込まれて俺を抱き枕にしてくる


「鈴りん鈴りん、ちゅー」


「もう、酒臭いぞこのキス魔」


月弥は酔っ払うとすぐにキスをしてくるし、してしてとせがんでくる

今もちゅっちゅと頬やら唇やらにキスされてるが、もう慣れっこだ

これを余所様にしてなければいいんだが…芸人の集まりならまだ笑い話だが、ドラマの打ち上げの時は結構ひやひやする

今のところ月弥にキスされたとかの話は聞いてないからいいのだけど


それにしても男前が幼い言葉を使って楽しそうな姿は、なぜか可愛く見える

年下だから余計そう見えるのだろうか

だからこんな酔っ払いでも憎めない


「鈴りんからもちゅーして?」


「してあげるから、お尻揉むのは止めてくれ」


「だって鈴りん可愛いんやもんっ」


もう会話になってるのかも怪しい

軽いキスを贈れば、これまた嬉しそうに頬を緩ませる
だらしのない顔だ


「鈴りんめっちゃ好きー、一生大事にするから結婚しよ?」


「はいはい、夢の中で結婚しておいで」


そう伝えればさっきのように唇を尖らせて拗ねたが、俺を抱き枕にしたまま眠りについた

寝苦しいながらも解放されないから仕方なく俺も眠りにつく


おやすみ、月弥



end

 

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