main

□女嫌い克服大作戦?
1ページ/11ページ



「お願いっ!」


「…どうしても?」


「どうしても!」


そう言われて中々首を縦に振れない

必死に頼んでくるのは友達の宏武(ひろむ)のお姉さん

頼み事の内容は俺に女の振りをしてほしい、とのこと


「あんな怖い姿を見たくないし、将来が心配…と言うか友達にも紹介出来やしないし」


紹介出来ない理由は宏武が女嫌いだからだ

小さい頃に女の人に誘拐され、心に傷をおったらしい

俺もあまり詳しくは聞いていないが、女の人を前にした宏武は野良猫みたいになる

目力が強い上に睨む
無口になる
べたべたと馴れ馴れしくしようものなら手をあげてしまう


見ている方もいたたまれなくなる…だから協力出来るのならしたい


「…わかった、いいよ。でもすぐバレると思うけど、いいの?」


「ありがとー!もう泉(いずみ)だけが頼りだったのっ、私がバレないように責任持って変装させるから!」


頷いたものの、こんな軽はずみと言うか騙すような事をしていいのかな…

不安が消えないままお姉さんに着せ替えられていった





「…あんまり女の子らしくなくて良かった」


髪型もあまり変わらず、前髪だけ目に掛かりそうな程の鬘をつけ、顔半分を隠している
後は眼鏡をかけ、よく見ない限り俺だとは分からない

服装も色は明るいと言うか柔らかいが、いつも俺が着てる感じで変わりはない


「ボーイッシュにしておかないと宏武も警戒しちゃうからね。喋り方もそのままで良いからね」


自分の格好とその言葉に少し安堵しながらお姉さんの後をついて行く


「宏武ー。無害な人間捕まえて来たわよー」


「………」


「私と同じ大学で友達の静香(しずか)ちゃん。この子男に興味ないし、宏武と趣味が一緒だからきっと仲良くなれるわよ!じゃっ」


お姉さん…俺の紹介の仕方が雑な気が…

宏武は無言で睨み付けてきたが、俺は見慣れていたので特に何も思わなかった

女が嫌いな宏武は女が近寄るだけで今の俺にしてるように睨み付けて威圧的なオーラを出すのだ
これで大抵の女は半泣きになり話しかけるどころか近寄るのを止めて逃げていく

まぁそれが一部の子には格好いいとされ人気なのだが、その子達さえ宏武を端から眺めているだけだ


バタリと扉が閉められ二人っきりにされ、俺はやや重い口を開いた


「こ、こんにちは」


「…っチ」


…舌打ちされた

まぁ多分お姉さんから女の子を紹介されるのが初めてじゃないんだろう

でも気なんか遣ってやらない
同情されるのは宏武だって嫌だろうし、俺も来たからには楽しく過ごしたい


「このゲーム俺も好きなんだ、やらない?」


「…」


一人称変えるの忘れていたが、宏武も無反応だったから気にしない事にした

ゲームを手に取りゲーム機にセットすれば俺は勝手にゲームを始める


暫く眺めていた宏武も暇だったのか途中から参戦したが相変わらずの無言であった


「……で、何が目的な訳?」


「ん?趣味合うんだし仲良くなれたらって思っただけ」


やっと開いた口からはいつも聞く宏武の声より何トーンも低かった


「俺女嫌いなの、知ってる?」


「聞いた。てか見てて分かる」


ゲームしてるだけだけど、喋らないだけならまだしもこの距離感

宏武はコントローラーの線がいっぱいいっぱいに張る程離れて座っているのだ


いつもなら隣同士でわいわい言いながらプレイするのに

でも何だかんだでゲームしてる辺りが可愛くて笑みが零れる


「外見とか、付き合うの目的ならさっさと止めた方がいいぞ」


「普通に仲良くしよーぜ?気が合わないなら友達になるのは諦めるし」


微笑んだまま尋ねるが返答はなかった

少し驚いた顔をしていたような気がしたのは気のせいだろうか


「じゃーね。また遊ぼーな」


時間も時間だったのでゲームを切り立ち上がれば宏武の部屋を後にし、お姉さんの部屋へと足を向けた



「――…と、こんな感じだったけど」


「ぷ…あははっ、泉ホントに素でいたのねっ。ちょっとはバレないように女の子らしくするかと思ってたのに…あーおっかしぃ」


「バレてないっぽかったからいいかなって…そんなに笑わなくても」


「ごめんごめん。でもそれが一番宏武に合ってると思う。協力するって言って来た子はだいたい泣かされてたし…」


「うん、多分俺が女なら泣いてたと思う」


「でしょ?ありがとうね、また来週辺りにお願いするから。お礼もちゃんとするし欲しい物とか考えおいてね?」


「はーい。またね」


お姉さんの部屋で着替えを済ませ、眼鏡と鬘を返せば家へと帰った
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ