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□伝わらない
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昼休みの教室
「海ちゃん、あー」
俺の前の席の皆川が、振り返り口を開けて待っている
周りの視線が痛い、特に女子から痛い
いたたまれなくてそそくさと弁当を片付ければ教室を後にした
「皆川君と何いちゃついてるのよ」
「席がたまたま後ろなだけなんだから関わらないでくれる?」
またこれだ…もう何度目だろう
俺は何も言い返せず、女の子達は口々に不満を言いながら去っていった
いったい何なんだ…皆川
新手の嫌がらせなのかな…
すっかり食べる気が無くなった弁当を持って、チャイムが鳴ってから俺も教室へ帰る
「どこ行ってたんだ?」
振り返って尋ねてきた彼に返事をするか否か迷っていれば、教師が来たので会話は中断された
何となく気が沈み机に突っ伏す
この事を相談しようにも数少ない友人は今インフルエンザで休み
心配でメールしてみたら「元気なのに学校サボれて最高!」って返ってきてメールする気力もなくなった
皆川がこんな風に構ってくるようになったのも、ちょうど俺の友人が休むようになってからだ
しかも構い方が可笑しい
「俺に弁当作ってきて」とか「食べさせて」とか「手を繋いで帰ろう」とか…女の子に頼めばいい事ばかり言ってくる
そんな事今まで誰からも言われたもなかったし、からかわれているのかと思い何て返事を返したらいいか分からず、結果無言か逃げると言う失礼な態度で早3日も過ぎている
そんな俺に皆川は今日話しかけてくるんだからある意味凄い
はぁ…このままじゃ駄目だ…何とか話しを、その前に普通に返事をしないと
そんな事を考えていれば居眠りをしてしまい…起きれば外はオレンジ色だった
…誰か起こしてくれてもいいじゃんか
でも寝てしまった自分が悪いので溜め息を付けば顔を上げた
「おはよう」
「おは…よ」
な、何で皆川がいるの?
「ぐっすり寝てたみたいだから起こすの悪いかなって」
そ、そっか…
「今日こそは手ぇ繋いで帰ろう?」
いや…何でそんな…てか俺が起きるの待ってたの?
疑問をぶつけるより二人っきりなこの教室の居心地が悪く、荷物を鞄に詰め込めば立ち上がった
そのまま帰ろうとすれば手を掴まれて引き止められる
「そんなに俺が嫌い?」
何でそんな泣きそうな顔するんだよ…泣きたいのはこっちだ
「違う…けど」
「じゃー何で無視するの?」
「無視は…したくてした訳じゃ…」
何とか返事を絞り出すも俺の様子に苛立っているのが伝わってくる
それがうつってしまったようでこっちも苛立ってくる…
「そっちこそ…何なの?嫌がらせ…?何か悪い事したなら謝るから…教えて欲しい」
「嫌がらせだって?」
皆川の眉間に皺が寄るが、言うのを止められなかった
そのくらいストレスが溜まっていたのだ
「そ…そうじゃないの…?それか何かのゲーム?…何でもいいけど止めて欲しい…女の子に文句言われるのもうんざりなんだ」
溜まっていた事を全て吐き出してしまった…もう相手の顔を見るのが怖くて俯く
ガタンと立ち上がった皆川に肩をびくりと跳ねさせる
肩を掴まれたと思えば床へと押し倒されてしまった
「い…っ、なに…?」
「すげー苛つく…そんな事思ってたのかよ」
乱暴に組み敷かれたので節々が痛む
でもそれよりも言葉や言動が荒い、まるで別人のようになってしまった皆川が怖い…
今から殴られるのか…そう思って身構えていたら腕を痛いくらい掴まれた
「俺は海が好きなんだよ!」
流石にびっくりして腕の痛みも忘れる
……これもまた何かの嫌がらせなのかな…
「男同士…だけど」
痛い沈黙が続き、やっと出た言葉がこれだった
「知ってる、それでも好きなんだよ」
それをあっさりと返されてしまい…本当に返答に困る
気のせいか皆川の頬が赤い
「の…退いて欲しい」
「嫌だね、どうせ信じてないんだろ」
主張はあっさりと却下され、もうどうしていいか分からず素直に頷いた
溜め息をつかれれば掴まれてる腕に力を入れられ痛くて顔が歪む
痛い、と言おうとしたその唇は皆川の唇によって塞がれた
「これで分かったか?ほら、手ぇ繋いで帰るぞ」
やや頬が赤く見える皆川が上から退いてくれ、差し伸べられら手
俺はその手を握らず、鞄を持つのも忘れて全速力で家まで帰った
end