ぶっく

□欠陥品
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平凡な容姿は仮面で隠せ、平均も無い身長に体重、ひ弱に見える色白…青白い体はここでは得だった

ゲイでドMだなんて、彼氏彼女と言う関係を作るのが大変なんだろう。数は少ないながら、俺には固定客がついていた

例えるなら、彼らを集めたら小さな動物園のような感じ。我ながら中々上手に表現出来たな
もちろんメジャーな動物じゃない、日の当たらない謎に佇む動物達の方だ
彼らを嬲る一貫のプレイは、さながら飼育と言ったところ
この女装だって、作業着みたいなものだ

しかし最近やってくる、俗に言うパンダには…飼育は困難を極めた


「ゆーなちゃん、ここ…治療して?」


「そんな看病やってません」


「そんな事言わないでさ、…してくれなきゃもっと凄いことしちゃうよ?」


「…満足させてくれる気はしませんが?」


「いいねぇ…こんな体でそんな事言うなんて、やらしいナースさん」


手を払っても払っても触られ、抱き着かれ、匂いを嗅がれる
げんなりしながら押し付けられる物を手袋越しに少し強く握ってやった


「もう触らないって約束出来るなら、考えてあげますけど」


「約束するする、だからエッチしよ?」


「…手だけで充分でしょ」


有無も言わさない技術だけは、他の客から学んできたから身についている
足技にしても、同じくどこをどうすればいいのか。虐めと称して何時間も客に強いたのでやり方も分かっている

喋りかけてくる彼を大人しくさせるように、強弱をつけて手で摩り上げていく
本当は、こんなイケメンの相手をするだけでも尻込みと言うかビビってしまう。まだ世間一般で言う見るに堪えない容姿の方が俺には可愛く思えた

笑わなくても笑顔に見える、垂れ目がちな瞳は誰よりもギラついる
人慣れしている口振りに、セックス慣れしている手つき
こう言う店も慣れているんだろう。初回はヤりたがらない俺を彼は不審そうに見ていた

…ヤるとなると俺はどうすればいいのか。AVで見たようにこの男を襲わないといけないのだろうか
考えただけでも、元から小さかった物が更に萎えた気分だった


「ゆなちゃん、パンツ見せて?」


「嫌です」


「じゃーおっぱいみせて?」


「…痛くされたいんですか?」


強めに握ってみても、彼のへらへらとした表情は崩れなかった

こんな挑発的な台詞も普段ならきっと、彼みたいな人なら尚更、会話すら成立しないだろう
さながらこの仮面が、俺にとっては切り替えるスイッチだった

くびれに親指を這わせ、先端は掌で擦り違った刺激も与える
それから扱き上げれば他の客と変わらず彼も精を吐き出した
自分にはかからないようにし、彼の腹についた液をティッシュで拭えばゴム手袋と一緒にゴミ箱へと捨てた


「延長、してもいい?」


露骨に顔をしかめてみるも、やはり表情はぴくりとも動かなかった
NGにしようかと悩むくらい、本気で相性が悪い
でも流石と言うか、他のお客より羽振りが良すぎるので、切るに切れないでいる

頷けばサービスだと、ただの水をコップに注いで彼にも差し出した
それを一口飲めば、距離を開けて彼の隣へ腰掛けた


「一つだけ、質問してもいいですか?」


「なーに?」


「間宮さん、Mじゃないですよね」


「んー?そんな事ないよ?」


Mにも沢山種類があるのは分かっている
性的な行為を一切しなくても通ってくれる客も居れば、一度で根をあげて二度と来ない人もいる。一種のスポーツのような激しさを求めるような人だっている

けど、何と無く彼は違っていた。どちらかと言えば冷やかしや一度で根をあげる人と同じ匂いがする


「ゆなちゃんの言葉責めも、手コキも足コキも好きだし。えっちしたいって毎回思ってるよ?」


「しませんけどね」


「ゆなちゃん冷たーい」


指折り数えて笑顔で言ったと思えば、冷たい態度に眉を下げて拗ねる表情をする彼
客の要望を叶えないなんて、とも自分で思う。このキャラクターを与えてもらえて良かった


「はいはーい、俺からも質問いい?」


「答えれる範囲なら」


「ゆなちゃんって潔癖入ってるよね?」


「はい、汚い物に直接触れたくないので」


「うわ、ストレート!」


目を見開き驚いた風にするも、またへらりと微笑む

彼らの物に触れるのは、いつも手袋か靴下、ストッキング越しだ
それでもなるべく衣装に合わせるようにはしているから、それ程ツッコミをもらう事もなかった
むしろゴムを付けなく済んでいるので、客からは喜ばれている


「もう一つ、いい?」


「何ですか?」


「ゆなちゃんはいくら出せば買える?」


「残念ながら非売品です」


「はは、ゆなちゃんギャグセンス低っ」


そう思うのなら何故そんなに笑っているんだ
内心むすりとしながら水をもう一口飲んでいれば、耳元に彼の唇が寄せられた


「本気なんだ。考えておいてくれる?」


「答えは決まってます」


「不特定多数を相手するより、一人に媚びうる方が楽だと思わない?」


「人の顔色を伺う生活は性に合いません」


「残念。でも諦めた訳じゃないから、よく考えておいてね」


キスされた耳をお手拭きで拭えば、流石の彼も苦笑いを浮かべた
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